地下一階の小宇宙〜店主（仮）と厄介な人達

土曜はその後も、創太郎の知り合いや、たけさんの麻雀仲間が雀荘から合流したり、数は少ないがしばらくお客さんは途切れなかった。


やっと手が空いて賄いを食べる事が出来たのは夕方5時を過ぎた頃だった。


ドアのプレートを　 《close》　に裏返して、後片付けを終えると、創太郎がゴリゴリと豆を挽き始めた。



「佳乃、終わったならまぁ、ちょっとそこ座りなさいよ。」



改まって何なのかと思いながらも、カウンターの真ん中に腰掛けた。


目の前で創太郎がゆっくりとネルドリップにお湯を注ぐのをただ黙って見つめる。



「ほい。」



目の前に置かれたカップの中を見つめると、やっぱり自分が淹れた珈琲とは、見た目からしてどこか違うような気になる。



「3日修行して、ここで働いてみて、今のお前でもう一回飲んでみな」


創太郎に似合わない言葉を聞かされて、なんだか飲むだけの事にひどくプレッシャーを感じる。


創太郎の珈琲を飲むのは、はじめてアンカサに連れて来られたあの日振りだ。


「いただきます…」



ーーーうん…　やっぱり美味しい。



「美味しいよ、すごく。　
…でもなんだろう。　
最初はただただコーヒーの美味しさにびっくりして感動しただけだったけど、今は、何ていうか、味の広がりとか、この珈琲の味の印象とかがぼんやりと見える感じ？　
うまく言えないけど…」



ーーーちょっと生意気かな



漠然としすぎて言葉にはまだ出来ないけど、知っていくとは、そう言うあやふやなものを少しずつクリアにして行くものだと思う。



「ハハ、　なかなか成長が早いじゃないの。
ま、お前は大丈夫だよ。
頑張るっていう才能の持ち主だ。
周りの人に助けられるっていうのもある種の才能だしな。　
その才能、思う存分使って佳乃なりの城にしていけばいいよ。」


何だろう、創太郎らしくないことをよく言われる日だ。



「うん…　ありがとう…。　
　出来る限りのことは頑張るよ。　
そうちゃんも、しっかりスマトラに学校建ててね！」



「おお！　任せとけ！」


ニカッ！と笑って暑苦しめのガッツポーズを作って見せる。


「　来週はもっとこの珈琲に近付けるように、そうちゃんのドリップ沢山観察するね！　　」


何故かそれには小さく頷くだけだった。