地下一階の小宇宙〜店主(仮)と厄介な人達
【第4章】その男子高生、屈折中
その後は、自分がいつ意識を取り戻して、
何をどうして今こうやって商店街へ買い物へ自転車を走らせているのか覚えていない。
気が付いたら自転車の鍵を外してペダルを踏み込んでいた。
何を思ったのか、はたまた思考を停止して考える事をとりあえず止めたのか、頭の中は、とにかく今日も店を開けなければいけないと言う事だけだった。
せめて何か、もしもたけさんがお腹を空かせて来た時に出せるものを、もしもコーヒー以外を注文された時に出せるものを…
なぜか頭の半分は冷静で、もう半分は逃げ出したいくらい焦っているのに、そのアンバランスな心と体とが、絶妙な機動力となって体を動かしていた。
精肉店のかずよさんに声をかけられたが、ちゃんと笑顔で挨拶を返せたか自信が無い。
急いで店へ戻り、開店の準備に全神経を集中させた。
一段落付き、お昼前になっても今日はたけさんは現れなかった。
客はゼロで自分のまかないを食べる時間はあったが、全くお腹が空かない。
ネルドリップの練習をしようと器具を並べてみたけど、珈琲を淹れる気分にもなれない。
ーーーー 焦ったり怒ったりしてるほうが体って動くんだな…
時間が空いてもこういう時には、プラスアルファの事は出来ないものだ。
創太郎がいなくなった途端、午前もお昼を過ぎてもお客さんがやって来ない。
常連さん達も所詮は創太郎がいたから私にも優しくしてくれただけで、私だけのアンカサなんて実際はなんの魅力も価値も無いのではないか、と重くて暗い自分の思考に押し潰されそうだ。
何だかんだ言って、創太郎とは人を惹き付ける魅力を持った人間なのだ。
午後3時を過ぎた辺りで、佳乃はもう自分のギリギリの精神状態をキープする事が困難になって来た。
なぜ今週いっぱいはここで私に修行を付けると言ったのに突然いなくなるのか。
月曜は店舗の契約書を絶対に持ってくると約束していたではないか。
唯一の決まった業者の豆屋さんにちゃんと紹介してとお願いしたではないか。
創太郎のドリップを月曜はもっと観察すると言ったのに、なぜ中途半端ですべてを投げ出す事が出来るのか。
私を強引にこの世界に引き込んだのに、なぜ途中で手を離したのか…
あとたった一週間だ。
ーーー 一週間でちゃんと一人立ちする覚悟を決めていたのに…
昔から母も創太郎もこうだった。
できない約束をする。
その度に期待をするのに、土壇場で自分の本能と欲求を優先させる。
授業参観だって、運動会だって、何度も次は来るって言ったのに、母は世界の何処かへ原石を探しに行ってしまって、私は置き去りになる。
その度に父は慰めてくれたが、私の心には少しずつ穴が広がっていくのだ。
ーーー もういい。
なんで全てを投げ出す人の城を、投げ出された私が守らなきゃいけないの
カウンターの内側の小さな丸椅子から腰を上げて、帰り支度を始めようとした。
何をどうして今こうやって商店街へ買い物へ自転車を走らせているのか覚えていない。
気が付いたら自転車の鍵を外してペダルを踏み込んでいた。
何を思ったのか、はたまた思考を停止して考える事をとりあえず止めたのか、頭の中は、とにかく今日も店を開けなければいけないと言う事だけだった。
せめて何か、もしもたけさんがお腹を空かせて来た時に出せるものを、もしもコーヒー以外を注文された時に出せるものを…
なぜか頭の半分は冷静で、もう半分は逃げ出したいくらい焦っているのに、そのアンバランスな心と体とが、絶妙な機動力となって体を動かしていた。
精肉店のかずよさんに声をかけられたが、ちゃんと笑顔で挨拶を返せたか自信が無い。
急いで店へ戻り、開店の準備に全神経を集中させた。
一段落付き、お昼前になっても今日はたけさんは現れなかった。
客はゼロで自分のまかないを食べる時間はあったが、全くお腹が空かない。
ネルドリップの練習をしようと器具を並べてみたけど、珈琲を淹れる気分にもなれない。
ーーーー 焦ったり怒ったりしてるほうが体って動くんだな…
時間が空いてもこういう時には、プラスアルファの事は出来ないものだ。
創太郎がいなくなった途端、午前もお昼を過ぎてもお客さんがやって来ない。
常連さん達も所詮は創太郎がいたから私にも優しくしてくれただけで、私だけのアンカサなんて実際はなんの魅力も価値も無いのではないか、と重くて暗い自分の思考に押し潰されそうだ。
何だかんだ言って、創太郎とは人を惹き付ける魅力を持った人間なのだ。
午後3時を過ぎた辺りで、佳乃はもう自分のギリギリの精神状態をキープする事が困難になって来た。
なぜ今週いっぱいはここで私に修行を付けると言ったのに突然いなくなるのか。
月曜は店舗の契約書を絶対に持ってくると約束していたではないか。
唯一の決まった業者の豆屋さんにちゃんと紹介してとお願いしたではないか。
創太郎のドリップを月曜はもっと観察すると言ったのに、なぜ中途半端ですべてを投げ出す事が出来るのか。
私を強引にこの世界に引き込んだのに、なぜ途中で手を離したのか…
あとたった一週間だ。
ーーー 一週間でちゃんと一人立ちする覚悟を決めていたのに…
昔から母も創太郎もこうだった。
できない約束をする。
その度に期待をするのに、土壇場で自分の本能と欲求を優先させる。
授業参観だって、運動会だって、何度も次は来るって言ったのに、母は世界の何処かへ原石を探しに行ってしまって、私は置き去りになる。
その度に父は慰めてくれたが、私の心には少しずつ穴が広がっていくのだ。
ーーー もういい。
なんで全てを投げ出す人の城を、投げ出された私が守らなきゃいけないの
カウンターの内側の小さな丸椅子から腰を上げて、帰り支度を始めようとした。