地下一階の小宇宙〜店主(仮)と厄介な人達
「何? あんたあの人に騙されたの? 別にやりたくなきゃやらなきゃいいだろ」


佳乃より20cm近くは高そうな長身から見下ろす目は、切れ長で冷たい。



「 …騙された…?」

「あ?」



佳乃は履きなれないヒールの足の痛みも忘れて、カウンターの中から大股で学生の目の前まで出て行った。


「騙されてないっ!私は騙されてなんかっ…!!
大人には突然でもなんでも、やると決めた事は責任を持ってやりきらなきゃいけない時があるの!!
あなたはまだ学生でっ… 
始めて会った配達先の人間にもそんな態度で、責任もなくて…っ!

あなたがそんなんで誰かを怒らせても 
きっと責任はあなたの親御さんかバイト先か知らないけど、自分以外の誰かが取ってくれるんでしょう?!

オトナは…っ …私は!! 誰かが放り投げた責任も!やると決めた事への責任も全部自分で取るんだよ!!  
スネかじって甘えまくってるくせに!
簡単にやらなきゃいいとか言わないでっ!!」



抑えていた涙が表面張力に耐えきれなくなってぼろっと落ちた。

一粒落ちると、その一粒がまるでダムの全ての水を抑えていたかのように、次から次へと押し上がって流れて行った。

「あ?!誰が甘えてんだよ!
周りを振り回して家族なら何でも許されると思って甘えてんのは大人の方だろうが! 
知りもしねぇで偉そうなこと言ってんじゃねぇよ!」



涼し気な目元はすっかり怒りに色を変えた。



「知らないよ!!でも、少なくとも、大事な物を背負う事のできる人の言動じゃない!」


学生は一瞬ハッとした様に目を見開いたが、すぐにまた表情を怒りに歪めた。



「お前が言える事でもないだろ…
お前だってまだ何の責任も取ってないだろうが。
偉そうに上から物言ってんじゃねぇよ」



「私は… !」



ーーー私は…

そうだ、私はまだ何の責任も取っていないし、何か始めた訳でもない。


「…そう…だね。私に言える事じゃなかった…。
ごめん…。」



学生は視線を下げた佳乃を数秒見てチッと舌打ちした。


「だったら最初っから喧嘩売ってんじゃねぇ…」


そのまま踵を返し、乱暴にドアを開けて出て行った。


ーーーどうして私はこうなのだろうか。

今月から学習機能向上月間ではなかったか。

子供の時から今も変わらず振り回されて、簡単に信用して一人ぽつんと残される。
目の前の事をポイと捨てて知らん振りする事もできないくせに、盛り上がって責任事を増やしてしまう。

…バカだ。 なんて馬鹿なんだろう私は。




見ず知らずの学生にとんでもないことを言ってしまったのかもしれない。


佳乃は男子学生の居た涙でぼやけた床を見つめた。

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