地下一階の小宇宙〜店主(仮)と厄介な人達
しばらく立ち尽くしていた佳乃だが、はぁっと一つ息を吐き、目元をぐいと擦った。
ーーー そうだ、ここで私は頑張ると決めていた。
それが一週間早まったって、やる事は一緒じゃないか。
さっき外したエプロンをつけ直す。
「とにかく珈琲をいれよう…」
ーーー今の私にできる事をしよう
きっとたくさんあるはずだ。
それから少しして、来店を告げる鐘が鳴った。
紙袋を下げたゴローさんが入ってきた。
朝はあんなに晴れていたのに、結局降り出したのか、肩や頭が少し濡れている。
「ごろーさん… いらっしゃいませ」
「佳乃ちゃん… 今日は少し遅くてごめんね…
大丈夫だったかい?」
ゴローさんが気遣わしげ気にカウンターへ近付いて来た。
「ゴローさん、知ってるんですか?」
「うん…、 それでこれ。」
カウンターに持って来た紙袋を置き、自分も定位置に腰掛けた。
「私にですか…?」
ゴローさんが中から紙の束を取り出した。
「うん これはここの賃貸契約書と銀行の通帳だよ。」
ゴローさんは少し目線を下げて、困った様に小さく笑った。
「僕とソウは昔なじみで、ソウも僕には色々頼みやすいんだろうね。
ごめんね、止められなくて。
でも、ソウは佳乃ちゃんを見捨てる気持ちで居なくなったんじゃないんだよ? 」
「知ってます…
いつもそうなんです…昔から。
母もそうちゃんも、凄く似ていて…。
悪気があるとか、裏があるとか、そう言うんじゃないのも知ってるんです。
でもそれって、実は凄く酷じゃないですか?
責めようが無いんですよ…。
そう言う人には。
何より、毎回信じてしまう自分に呆れます… 」
赤く目を腫らして、まだ泣いてるような佳乃の表情にゴローさんが少し目線をさげる。
「そっか…。
でも佳乃ちゃんは自分を責める必要は何一つ無いじゃない。
信じる時、佳乃ちゃんは自分の気持ちに正直に、過去じゃなくて未来の自分と相手を見てる。
それって凄く前向きで、素直で優しくて、歪んでない、 誰もができる事じゃない、
君の素晴らしく美しい所なんじゃないかな」
今まで、お人好しとか、騙されやすいとか、チョロいとか、そう言われてきた自分のコンプレックスを、こんな風に言われたのは初めてだった。
がんばって止めたはずの涙がまた溢れ出す。
「すいません…!
…ありがとうございます…」
「僕らは佳乃ちゃんの味方だし、ソウも、自由奔放で仕方の無いやつだけど、君を凄く信頼してるんだ。」
ーーー そうだ、ここで私は頑張ると決めていた。
それが一週間早まったって、やる事は一緒じゃないか。
さっき外したエプロンをつけ直す。
「とにかく珈琲をいれよう…」
ーーー今の私にできる事をしよう
きっとたくさんあるはずだ。
それから少しして、来店を告げる鐘が鳴った。
紙袋を下げたゴローさんが入ってきた。
朝はあんなに晴れていたのに、結局降り出したのか、肩や頭が少し濡れている。
「ごろーさん… いらっしゃいませ」
「佳乃ちゃん… 今日は少し遅くてごめんね…
大丈夫だったかい?」
ゴローさんが気遣わしげ気にカウンターへ近付いて来た。
「ゴローさん、知ってるんですか?」
「うん…、 それでこれ。」
カウンターに持って来た紙袋を置き、自分も定位置に腰掛けた。
「私にですか…?」
ゴローさんが中から紙の束を取り出した。
「うん これはここの賃貸契約書と銀行の通帳だよ。」
ゴローさんは少し目線を下げて、困った様に小さく笑った。
「僕とソウは昔なじみで、ソウも僕には色々頼みやすいんだろうね。
ごめんね、止められなくて。
でも、ソウは佳乃ちゃんを見捨てる気持ちで居なくなったんじゃないんだよ? 」
「知ってます…
いつもそうなんです…昔から。
母もそうちゃんも、凄く似ていて…。
悪気があるとか、裏があるとか、そう言うんじゃないのも知ってるんです。
でもそれって、実は凄く酷じゃないですか?
責めようが無いんですよ…。
そう言う人には。
何より、毎回信じてしまう自分に呆れます… 」
赤く目を腫らして、まだ泣いてるような佳乃の表情にゴローさんが少し目線をさげる。
「そっか…。
でも佳乃ちゃんは自分を責める必要は何一つ無いじゃない。
信じる時、佳乃ちゃんは自分の気持ちに正直に、過去じゃなくて未来の自分と相手を見てる。
それって凄く前向きで、素直で優しくて、歪んでない、 誰もができる事じゃない、
君の素晴らしく美しい所なんじゃないかな」
今まで、お人好しとか、騙されやすいとか、チョロいとか、そう言われてきた自分のコンプレックスを、こんな風に言われたのは初めてだった。
がんばって止めたはずの涙がまた溢れ出す。
「すいません…!
…ありがとうございます…」
「僕らは佳乃ちゃんの味方だし、ソウも、自由奔放で仕方の無いやつだけど、君を凄く信頼してるんだ。」