地下一階の小宇宙〜店主(仮)と厄介な人達
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怒りと何かモヤモヤとする感情のまま勢いよくドアを開け外に出た。
ーーーなんなんだよ、あの女…!
真木 海星(まき かいせい)は感情の抑え方がどうにも見つからなくて、店には戻らず家にバイクを取りに戻った。
バイクを走らせた先は、最近行く回数がめっきり減った、悪友の溜まり場だった。
つい半年ほど前までは、頻繁に入り浸っていた場所だが、高3に上がってからはまだ一度も行っていない。
海星の家は日野原商店街で珈琲豆専門店をやっている。
以前はまだ珍しいITエンジニアだった父親を尊敬していたし、小学校でも自慢だった。
母は専業主婦で学校でも美人だと評判で、誰もが海星の家庭を羨ましがっていたのを、気恥ずかしながらも誇らしく思っていた。
それが突然、あの父親は家族に何の相談もなく、あっさりと皆の憧れの職業を捨てた。
そして家族の平穏な生活も、まるでそれさえも自分の所有物かの様に、捨てた。
訳のわからない珈琲豆を売る店を作り始めたのだ。
溜まり場は、町の外れに建つ2階建ての古いビルの二階で、一階は仲間の親がやっていた潰れた中華食堂が放置され、なんとも陰気なオーラを漂わせている。
そこにバイクやらガラの悪い若者やらが出入りしているものだから、この一体は"治安の悪い場所"として認識されていた。
「えっ…!!
ちょっとちょっと海星じゃーん!
久々だね〜!
もう更生しちゃったのかと思ってたよ!」
「 …うるせぇな、いつ来ようが俺の勝手だろ」
わざとらしく驚いて海星をからかうのは、何となくできたこのグループの中心的存在で、以前は一匹狼的に振まう海星の後をよくくっついて歩いていた。
「寂しかったよ!海くん!」
いつもふざけた調子で、べたべたとまとわりついてくるこの男、ミツルが、海星はあまり好きではない。
「あ、海星!うそ!
また戻ってくるの?! 嬉しい!」
昔誰かの女だったようなそうじゃなかったような、特に名前も覚えていない女が馴れ馴れしく密着してくる。
「触んな」
腕に回される手を肩で振り払った。
「相変わらず海星くんはつれないね〜!
それでも群がる女の数は減らないんだから羨ま〜〜〜!!」
ミツルがバカにしたように茶化してくる。
「海星は天然記念物級イケメンだからいいの!
そりゃ、もうすこ〜〜し優しくしてくれたらウレシイけどぉ」
くねくねとした女が海星の腕をつんつん突く。
「帰るわ」
「きゃ! ちょっとかいせ〜い!」
ソファから立った勢いでまとわりついた女がバランスを崩した。
「あーーん、海星やっぱ国宝級〜〜!」
「 … 。 」
海星は相変わらずの女には一目もくれず、上ってきたばかりの階段を降りた。
途端に表情を消したミツルが、その後ろ姿をじっとみつめていた。