地下一階の小宇宙〜店主(仮)と厄介な人達
ーーーー えー… ちょっとどうするの… この状況…
佳乃は驚いてトレーを胸に抱えた状態から、動くに動けずそのままの態勢である。
海星はげんなりした様に肩肘をついてスマホに視線を向けているが、恐らく殆ど見てはいないだろう。
深く深呼吸をして怒りと興奮を収めようとしている女が、大きく息を一つ吐いて、後ろの方で固まっている佳乃を振り返った。
「 …あの、 ごめんなさいね、 大きな声を出してしまって…。」
先程の大声と打って変わった穏やかに声に、佳乃もハッと我に返った。
「あ、いえ! あの… コーヒー入れ直しますね!」
女がテーブルのコーヒーカップに目をやると、中身が3分の1程こぼれてしまっている。
「あら! やだ、ごめんなさい!」
珈琲の存在自体今気付いたのか、テーブルの上の惨事にあたふたと椅子から腰を浮かせた。
「大丈夫ですっ!
新しいの持ってくるので、どうぞゆっくりしていて下さい!」
テーブルを拭くのか、新しい珈琲が先か一瞬混乱したが、まずはテーブルを片付けて、急いで珈琲を淹れ直す事にした。
自分がこんなに素早い動きが出来るとは、少し発見である。
カウンターに戻ると、ずっと放ったらかしかつ、思わぬ修羅場に遭遇させてしまった海星に、表情だけで申し訳ない気持ちを伝えた。
それに対して海星は、目を細めてげんなり感を色濃く表現している。
ーーー すっ…すみません…
「 俺 行くわ 」
すっと立ち上がろうと腰を半分浮かせた所で、女の声がその先を遮った。
「 …あの、あなた、日野原第一高校の生徒さん?」
突然声をかけられ、女に視線を移したまま海星の動きは止まった。
「あ、 制服が、そうだと思って。」
女が海星の制服のスラックスを指差した。
やや濃いグレーのチェックのパンツに半袖のシャツ姿だ。
海星は顎先だけで会釈とも言えない様な小さな反応だけして見せて、すぐに出て行こうとする。
相変わらず愛想の欠片もないヤツである。
「さっきの話聞こえてたでしょ?!」
「 は?」
ドアまであと一歩の所で足を止めた。
「 …私の娘は… 日野原第一のすぐ近くの
"北麗女子" に通ってるんだけど…
聞いての通り、何だか変なタレコミがあるみたいで… あ、ねぇ!! あなた! この娘! 見た事ない?!」
女は何か思いついたという勢いで席を立ち、自らのスマホを海星の顔の前に突き出した。
「 知らねぇよ… 」
海星は大して見もせずあからさまに嫌そうなしかめっ面を作る。
「ほら、 ねぇ、よく見てみて?
隣の学校だから、"日野一" と"ほくじょ" って結構交流あるんでしょっ?!」
まだ気が動転しているのか、見ず知らずの学生に藁にもすがるかのような勢いで迫っている。
「 だから知らねぇって」
「お願いしますっ!! …見るだけ…っ
インターハイも近いし オリンピックも狙えるかもって言われてるんです…っ!
…こんな事でっ… こんな…っ!」
女が海星の足元に崩れかけた。
「大丈夫ですかっ!? 一先ず座ってください…。」
床に尻を付きそうになった所で、カウンターから駆けつけた佳乃が支える。
「 海星君。 見るだけだよ。
知らないならそれでいいから、見てあげて? ね?」
自分の足元で女を支えながら、しっかりと海星の目を見上げて訴える佳乃を黙って数秒見返した。
「 …っはぁ…!! わかったよっ!」
強い視線のまま海星の目を見つめる佳乃に、海星は根負けしたのだった。
佳乃は驚いてトレーを胸に抱えた状態から、動くに動けずそのままの態勢である。
海星はげんなりした様に肩肘をついてスマホに視線を向けているが、恐らく殆ど見てはいないだろう。
深く深呼吸をして怒りと興奮を収めようとしている女が、大きく息を一つ吐いて、後ろの方で固まっている佳乃を振り返った。
「 …あの、 ごめんなさいね、 大きな声を出してしまって…。」
先程の大声と打って変わった穏やかに声に、佳乃もハッと我に返った。
「あ、いえ! あの… コーヒー入れ直しますね!」
女がテーブルのコーヒーカップに目をやると、中身が3分の1程こぼれてしまっている。
「あら! やだ、ごめんなさい!」
珈琲の存在自体今気付いたのか、テーブルの上の惨事にあたふたと椅子から腰を浮かせた。
「大丈夫ですっ!
新しいの持ってくるので、どうぞゆっくりしていて下さい!」
テーブルを拭くのか、新しい珈琲が先か一瞬混乱したが、まずはテーブルを片付けて、急いで珈琲を淹れ直す事にした。
自分がこんなに素早い動きが出来るとは、少し発見である。
カウンターに戻ると、ずっと放ったらかしかつ、思わぬ修羅場に遭遇させてしまった海星に、表情だけで申し訳ない気持ちを伝えた。
それに対して海星は、目を細めてげんなり感を色濃く表現している。
ーーー すっ…すみません…
「 俺 行くわ 」
すっと立ち上がろうと腰を半分浮かせた所で、女の声がその先を遮った。
「 …あの、あなた、日野原第一高校の生徒さん?」
突然声をかけられ、女に視線を移したまま海星の動きは止まった。
「あ、 制服が、そうだと思って。」
女が海星の制服のスラックスを指差した。
やや濃いグレーのチェックのパンツに半袖のシャツ姿だ。
海星は顎先だけで会釈とも言えない様な小さな反応だけして見せて、すぐに出て行こうとする。
相変わらず愛想の欠片もないヤツである。
「さっきの話聞こえてたでしょ?!」
「 は?」
ドアまであと一歩の所で足を止めた。
「 …私の娘は… 日野原第一のすぐ近くの
"北麗女子" に通ってるんだけど…
聞いての通り、何だか変なタレコミがあるみたいで… あ、ねぇ!! あなた! この娘! 見た事ない?!」
女は何か思いついたという勢いで席を立ち、自らのスマホを海星の顔の前に突き出した。
「 知らねぇよ… 」
海星は大して見もせずあからさまに嫌そうなしかめっ面を作る。
「ほら、 ねぇ、よく見てみて?
隣の学校だから、"日野一" と"ほくじょ" って結構交流あるんでしょっ?!」
まだ気が動転しているのか、見ず知らずの学生に藁にもすがるかのような勢いで迫っている。
「 だから知らねぇって」
「お願いしますっ!! …見るだけ…っ
インターハイも近いし オリンピックも狙えるかもって言われてるんです…っ!
…こんな事でっ… こんな…っ!」
女が海星の足元に崩れかけた。
「大丈夫ですかっ!? 一先ず座ってください…。」
床に尻を付きそうになった所で、カウンターから駆けつけた佳乃が支える。
「 海星君。 見るだけだよ。
知らないならそれでいいから、見てあげて? ね?」
自分の足元で女を支えながら、しっかりと海星の目を見上げて訴える佳乃を黙って数秒見返した。
「 …っはぁ…!! わかったよっ!」
強い視線のまま海星の目を見つめる佳乃に、海星は根負けしたのだった。