地下一階の小宇宙〜店主(仮)と厄介な人達
佳乃は一人、小さなパイプ椅子で背中を丸め悩んでいた。


ーーー これはマスモトさんに報告するべきかどうか…


ゴローさんとも話し合ったが、
話すリスクも、黙っているリスクもマスモト母娘にとっては大きい。

どちらを選んでもエレナの大切な"新体操の夢" には、良い影響を及ぼさない気がする。


ーーーもぉ〜〜〜! 
偶然首を突っ込まざるを得なくなった話にしては、荷が重過ぎるよ〜〜!!



目の前の封筒に入っている写真には、
前途明るいはずの高校生と、その家族の人生が掛かっているのだ。


ただその人達の9割は会った事もない他人である。


だがそこで放置して知らん振りを出来ないのが、この相田 佳乃という人間の最大の特徴なのだ。


伊達に約15年間もの間、

『お人好しの佳乃ちゃん』

と言われ続けてきた訳ではない。




殆ど心ここにあらずな状態でランチタイムを終え、
またお客さんが引いた午後から夕方の営業に突入した。


お客さんが途切れると、やはりまたあのパイプ椅子で背中を丸めて考え込むスタイルに逆戻りだ。



佳乃の頭の中では、この写真の女の子の真相をマスモトさんに正直に報告したバージョンのストーリーと、解析は不可能だったと言うバージョンのストーリーがさっきから繰り返し上演されている。




ーーーだめだ…
どちらも大事になりそう…
 
ここまで来てしまったら、穏便に済ませて今まで通りオリンピックを目指す…って言うのは無理なのかな…


色々な可能性が頭の中に現れては消え現れては消えしているが、良い方向に繋がりそうなアイディアは一向に現れてくれない。



こめかみの辺りがモヤモヤと痛くなってきて、手の平で目元を覆って大きく息を吐いた。


こんな時こそお客さんの話し相手になって考えるのを一時停止したいものだが、そういう時にこそ誰もやって来ない。


まるで佳乃のそんな邪な考えがバレているかの様だ。



気分転換に商店街の八百屋さんでサービスしてくれたレモンではちみつレモンでも作って飲もうかと冷蔵庫を開けた時、ドアベルが乾いた音を鳴らした。


腰を上げて入口を見た瞬間、変な中腰のまま体の動きが停止した。


「あ、  こんにちわ。 おじゃましますね」



「  マ…  マスモトさん…  !! 」

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