地下一階の小宇宙〜店主(仮)と厄介な人達
「…大丈夫? 腰…
変な風に曲がってるけど… 」
「 っえ?! っあっ!! っ痛〜〜〜!」
あまりにもびっくりして中途半端に曲げていた腰が、ピッキーーンっといってしまった。
「あらやだ! 大丈夫?!」
マスモトさんが小走りに駆け寄ってこようとしたので、そこはグギギギっと腰を無理やり伸ばして全力阻止をした。
カウンタの中には例の写真の封筒がある。
封筒の中だし、透視できるような代物でもないが、何となく存在自体を隠したい。
「 …だっ… だいじょうぶ…で、す…っ!!」
「 …そ… そう?」
まだ腑に落ちないような表情ではあるが、ここは大人しく席についてもらう方がいいだろう。
「あの、 何かまた事件でも…ありました…?」
なるべく平静を装ったつもりだが、内心はタイミング的にも、まだ事件が増えるのではないか?と言う不安でも、ドッキドキだったのだけれど。
「いえ… 事件と言う程ではないんですけどね…。
エレナには、今回の写真の事も言ってないし、先生から聞かされた話についても何も言ってないんですけど…。
最近学校に行きたくないって言い出したり、いつも暗い顔で、私ともあまり話をしたがらないんです…。
何かあったのか聞いてみても、何も無いとしか言わないし…。
私を避けているようにも感じるんです!
何か、直接エレナの方にも害が及んでるんじゃないかと思って!」
豊かな緩くウェーブのかかったロングヘアをバレッタで留めて、肩から胸へ流しているマスモトさんはおそらく40代半ばから後半くらいだと思う。
年相応の美しさと気品があるが、いかんせん出会いから今まで、取り乱したり興奮したりしている姿ばかり見ている。
なんだか今日は、最初に会った時よりも白髪が増えている気さえした。
「 そう…ですか…。
それは心配ですね。
あの… お友達の事とか… 何か話たりしないですか…?
あ、ほらっ! 年頃だしつ!
親には言えなくても友達には相談できたりするじゃないですか!!」
"友達" というワードで敢えて探りをいれてみたが、思ったより口に出すと自分で自分に動揺してしまう。
「ええ、そうですねぇ。 特に何も言いません。
聞いても殆ど事は、"別に" とか、"普通" で返されてしまいますから…。
以前は、あんなに母娘で何でも話せる仲だったのに…っ!」
特に佳乃の動揺には気づいておらず、母娘仲の変化に口元を抑えている。
何か気の利いたことを言いたいと思うが、会った事も無い女子高生の心情はさすがに想像出来ない。