地下一階の小宇宙〜店主(仮)と厄介な人達
エレナが帰った後は、やたらとドアが開く音に敏感に反応してしまい、せっかく来てくれた肉屋のかずよさんにもビクッとしてしまった。
かずよさんが何事かと不思議がっていたので、フォローする為に無駄に笑顔と会話に気合を入れたら、表情筋が攣りそうになってしまった。
ーーー少し整理しよう…
あの首すげ替え写真の元の女の子はエレナちゃんの親友で、ライバルでもある同じ学校の子だった。
顧問の先生は、わざわざマスモトさんを呼んで、ここアンカサで話し合う程心配していたはず…。
なのに、学校ではエレナちゃんを避けるような態度を取ってるらしい。
マスモトさんが、エレナちゃんの一番の親友だと言っていた娘は、エレナちゃんの中では今現在特に助けになってる友人では無さそう…。
学校の中で、何かしらのエレナちゃんに関する噂などが広まっているっぽいけど、本人には誰も教えてくれない。
いくら先生の態度がおかしくても、悪く言われたくないくらいにはまだ慕っているのだろう。
母娘関係の闇もなかなか根深そうだ…
「 …こじらせてるな… 」
頭の中に色んなことが浮かぶ度に洗い物の手が止まるので、なかなか閉店準備が終わらない。
ーーー何も関係がない私みたいな人間が関わってどうにかなる様な問題じゃない気もするけど…
でも、信頼できる人も居なくて、どんどん目に見えて周りの様子がおかしくなっていくなんて…
凄く怖くて… 孤独だろうな…
それに、どうして誰も何が起こってるのかエレナちゃんに言わないんだろう。
高校生くらいなら、言わずに我慢出来なくなった子から広まって行って、すぐに本人の耳に入りそうだけど…
確かに何か奇妙よね…
いつもの倍以上の時間をかけて閉店準備を整え、店の電気を消す頃には、もうすでに9時近くにまでなっていた。
佳乃は時計を見てギョッとして、小走りに店の外の階段を駆け上った。
自転車で駅に向かいながらも、頭の中ではずっと今回の問題がぐるぐると渦巻いていて、店のドアを開ける時に決めた、商店街のお弁当屋さんで夜ご飯を買う、と言うミッションもすっかり忘れて、気付いた時には既に通り過ぎた後だった。
戻る気にもなれないので、今日は仕方なくコンビニ弁当にしよう、、と思った所で、コーヒー豆屋"アステル" のオーナー夫人の"あさこさん"が店の外の看板を片付けている所に遭遇した。
そう、海星の母親である。
「こんばんわ」
自転車をキキッと止めて挨拶をした。
「あら、こんばんわ。お店、こんな遅くに終わるのね」
あさこ夫人は立て看板を動かす手を止めて、にこりと笑顔を見せてくれた。
ーーー海星君は間違いなくお母さん似だな…
少し顔色は悪いが、かなりの美人で商店街でも有名なのだ。
細く病弱そうなのもまた神秘的な雰囲気を醸し出していて、商店街で唯一 "夫人" と呼ばれているのも納得が出来る。
「いつもはもっと早いんですけど、今日は何だか時間がかかっちゃって」
話ながら、こんな頭の中がぐるぐるな時は、海星に一刀両断されたら少しはスッキリするかも…などとよぎる。
「具合はもう平気ですか? 入院してたって聞きましたけど…」
「あら、恥ずかしいわ。
大した事じゃなかったんだけど…。
もうすっかり大丈夫ですよ。
その間、うちの息子がご迷惑かけてなかった?」
海星から "家族" と言う物を連想した事が無くて、なんだか少しむず痒い感じもするが、ちゃんと普通の親子関係があるんだなぁ、と思うと、少しほっこりした気持ちが湧き上がった。
「いえいえっ! 逆に私が沢山迷惑をかけてしまったくらいです!」
あさこさんは整った目を少し見開いて、すぐにまたきれいな笑顔を見せてくれた。
「海星…、あなたが引き継いだあとのアンカサに配達に行くようになって、変わったと思います。」
「えぇっ?! そ、そうでしょうか?」
ーーー私が吐いた暴言が原因ならば、何だかすごく申し訳無い気もするけど…
「ええ。 アンカサには凄く行きたがってるように見えるし。」
「それはきっと、腹ごしらえか何かが目的だと思いますが…」
クスクスと笑っていたあさこさんが、すっと優しい瞳を見せる。
「ありがとうね… 生意気な子ですが、これからもよろしくお願い致します。」
「こっ!こちらこそ! 何もできませんが!!
あの… 今日は海星君は… 」
あさこ夫人は細い指を口元にあてて、少し考える素振りを見せると、にこりと笑った。
「きっと… 暇してると思います」
かずよさんが何事かと不思議がっていたので、フォローする為に無駄に笑顔と会話に気合を入れたら、表情筋が攣りそうになってしまった。
ーーー少し整理しよう…
あの首すげ替え写真の元の女の子はエレナちゃんの親友で、ライバルでもある同じ学校の子だった。
顧問の先生は、わざわざマスモトさんを呼んで、ここアンカサで話し合う程心配していたはず…。
なのに、学校ではエレナちゃんを避けるような態度を取ってるらしい。
マスモトさんが、エレナちゃんの一番の親友だと言っていた娘は、エレナちゃんの中では今現在特に助けになってる友人では無さそう…。
学校の中で、何かしらのエレナちゃんに関する噂などが広まっているっぽいけど、本人には誰も教えてくれない。
いくら先生の態度がおかしくても、悪く言われたくないくらいにはまだ慕っているのだろう。
母娘関係の闇もなかなか根深そうだ…
「 …こじらせてるな… 」
頭の中に色んなことが浮かぶ度に洗い物の手が止まるので、なかなか閉店準備が終わらない。
ーーー何も関係がない私みたいな人間が関わってどうにかなる様な問題じゃない気もするけど…
でも、信頼できる人も居なくて、どんどん目に見えて周りの様子がおかしくなっていくなんて…
凄く怖くて… 孤独だろうな…
それに、どうして誰も何が起こってるのかエレナちゃんに言わないんだろう。
高校生くらいなら、言わずに我慢出来なくなった子から広まって行って、すぐに本人の耳に入りそうだけど…
確かに何か奇妙よね…
いつもの倍以上の時間をかけて閉店準備を整え、店の電気を消す頃には、もうすでに9時近くにまでなっていた。
佳乃は時計を見てギョッとして、小走りに店の外の階段を駆け上った。
自転車で駅に向かいながらも、頭の中ではずっと今回の問題がぐるぐると渦巻いていて、店のドアを開ける時に決めた、商店街のお弁当屋さんで夜ご飯を買う、と言うミッションもすっかり忘れて、気付いた時には既に通り過ぎた後だった。
戻る気にもなれないので、今日は仕方なくコンビニ弁当にしよう、、と思った所で、コーヒー豆屋"アステル" のオーナー夫人の"あさこさん"が店の外の看板を片付けている所に遭遇した。
そう、海星の母親である。
「こんばんわ」
自転車をキキッと止めて挨拶をした。
「あら、こんばんわ。お店、こんな遅くに終わるのね」
あさこ夫人は立て看板を動かす手を止めて、にこりと笑顔を見せてくれた。
ーーー海星君は間違いなくお母さん似だな…
少し顔色は悪いが、かなりの美人で商店街でも有名なのだ。
細く病弱そうなのもまた神秘的な雰囲気を醸し出していて、商店街で唯一 "夫人" と呼ばれているのも納得が出来る。
「いつもはもっと早いんですけど、今日は何だか時間がかかっちゃって」
話ながら、こんな頭の中がぐるぐるな時は、海星に一刀両断されたら少しはスッキリするかも…などとよぎる。
「具合はもう平気ですか? 入院してたって聞きましたけど…」
「あら、恥ずかしいわ。
大した事じゃなかったんだけど…。
もうすっかり大丈夫ですよ。
その間、うちの息子がご迷惑かけてなかった?」
海星から "家族" と言う物を連想した事が無くて、なんだか少しむず痒い感じもするが、ちゃんと普通の親子関係があるんだなぁ、と思うと、少しほっこりした気持ちが湧き上がった。
「いえいえっ! 逆に私が沢山迷惑をかけてしまったくらいです!」
あさこさんは整った目を少し見開いて、すぐにまたきれいな笑顔を見せてくれた。
「海星…、あなたが引き継いだあとのアンカサに配達に行くようになって、変わったと思います。」
「えぇっ?! そ、そうでしょうか?」
ーーー私が吐いた暴言が原因ならば、何だかすごく申し訳無い気もするけど…
「ええ。 アンカサには凄く行きたがってるように見えるし。」
「それはきっと、腹ごしらえか何かが目的だと思いますが…」
クスクスと笑っていたあさこさんが、すっと優しい瞳を見せる。
「ありがとうね… 生意気な子ですが、これからもよろしくお願い致します。」
「こっ!こちらこそ! 何もできませんが!!
あの… 今日は海星君は… 」
あさこ夫人は細い指を口元にあてて、少し考える素振りを見せると、にこりと笑った。
「きっと… 暇してると思います」