地下一階の小宇宙〜店主（仮）と厄介な人達

「　いっ！　いーーーーやーーーーーっ！！」


佳乃からしたら急発進も同然なスピードで、一気に国道を駆け抜けていく。


「ぎゃーーー！ぶつかるぶつかるっ！！」


決して華奢ではない車体を、車と車の間を器用にすり抜けていくが、佳乃の感覚としては横にせり出したミラーや海星の膝やらが、あちらこちらに擦りそうに感じるのだ。



「ぶつからねーからだまっとけ！！」


「え！　ちょっとそこ狭っ！
きゃーーー！！」



次の信号で止まった時には、佳乃を黙らせる事は諦めたのだろうか…
振り向いた海星によって佳乃のヘルメットの透明なシールドがおろされた。







「し…死ぬ…　　　」


佳乃の家の近所のコンビニの前のベンチで、ヘルメットを脱ぎ、セットがボザボサになった髪を気にかける余裕もないまま、ぐったりと腰を下ろした。


「　　…死んでねーだろ…　　」


「もう心は3回くらいあの世に行ったよ！」


「…めちゃくちゃ安全運転したけど…　　」



海星が横に腰を下ろし買ったばかりのペットボトルを手の中で転がした。


「　…嘘でしょ…？　
世ではあれは安全運転のカテゴリなの…　　」


佳乃が茫然とした所で、頭の上にぽんと冷たい感触が載せられた。


「ん？」

「　　やる。　」

両手で触ると海星の手の中にあった冷えたお茶のペットボトルだった。


「あ、"よーい　お茶"　だ。　私お茶の中でこれが一番好きなんだー　ありがとう！」


半袖でもまだ涼しくない夏の夜に、冷えたお茶がすっと染み込んでいく。


「はぁ〜っ！　生き返った！」

「そんなんで生き返るならまた乗れるな」


「…それはどうだろう…　

そういえば！何で駅にいたの？突然送ってくれるなんて言うし　」


佳乃が最初の疑問を思い出し、海星の方へ体の向きを変えた。


そんな海星は一瞬視線を泳がせた後、斜め下あたりの何処かよくわからない場所へ視線を向ける。


「別に…　　たまたま？」　

「　たまたま？　　」

「あ？」

「いや…　たまたまって　」

「たまたまは　たまたまなんだよ！
お前こそ、いつもあんなに遅いのかよ」


海星らしく無い様子に少し面食らったが、
ここにきってやっと、あんなに大変だった今日の出来事について思い出した。



「そうだ！！　そう言えばちょうど今日は海星君に会いたいと思ってたんだよ！！」