地下一階の小宇宙〜店主(仮)と厄介な人達
「お前… そのたまに出してくるそういうの何なわけ…」
「え? 」
「いや、 いいわ 」
こいつに遠回しに何か言っても通じないと諦めた海星の横で、
今日の海星はよく喋るなぁ、と呑気に佳乃が思っていた事を彼は知らない…。
「そう! それでね!? ーーーー 」
佳乃は大変な思いをした今日の出来事を、
"聞いてほしい" と思っていた海星本人に、予想外に早く話せたことに興奮していて、とにかく一気に全部話した。
ゴローさんが来てから、エレナが店から出て行ったまでを話し終えると、こんなに自分って喋り続けていられるのか、と再発見までした。
「朝から晩までこんなに精神的に消耗したのは初めてだよ。」
「首突っ込むどころか、どっぷりだな 」
ただただ黙って聞いていた海星が呆れた様につぶやく。
「突っ込むつもりなんてなかったけど…
事件の方から勝手にやって来たのよ 」
大きく息を吸って、一気に上がったボルテージを呼吸と共に吐き出した。
「そんなもん迷惑だって言えよ…
って言いたいところだけど… 」
かなり無理めな一刀両断を食らいそう、と思った所で、背もたれから体を起こし、佳乃に視線を合わせた。
目と目が合うのは珍しい事だ。
「お前には無理だろ? 」
いつもの見下した様な言い方ではなく、まるで昔からよく知っているような、いたわるような言い方をされて、佳乃はそのまま海星から目が離せなくなってしまった。
まるで催眠術にかかって、体が固まってしまったみたいだ。
「とにかく誰が来ても、何言われても、何も知らないって言っとけ
お前がこれ以上関わる必要はねぇよ 」
そう穏やかに話す海星を見つめたまま動かない佳乃に、今度こそ眉間にシワが寄る。
「 おい、 聞いてんのか?」
「 っああ! ごめん!」
眉間にシワを寄せられるのが、催眠術から覚める合図なのか…
ハッとして佳乃は急いで頭を切り替えた。
「ボケっとしてっからめんどくせー事に巻き込まれんだよ 」
「ボケッとしてないよ! これでも毎日気を張ってお店切り盛りしてるんだからね 」
さっきの優しい雰囲気の海星は幻だったかのように、あっという間にいつもの言い草である。
はぁ、っと短くため息を吐き、背もたれに体を預け、その長い足を組んだ。
「 あいつ… あのホクロの女の方…
多分めんどくせー奴らとつるんでるから、
お前ほんとにもう関わるな。」
海星の声が少し固くなったのを感じて、ふとその表情を見た。
「面倒くさいって…? 」
あの薄暗いクラブの様な店の写真で、健全では無さそうなのはわかっている。
「ヤバいことに手出してる奴ら…。
…暇なんだよ。
…暇だから、面白えと思った事なら何にでも手出す。
今回の事も、もしアイツが面白いと思ったら、関わってきてもっとめちゃくちゃにされるぞ? 」
そういう海星の目には、佳乃には見えない "アイツ" の姿がしっかりと見据えられていた。