地下一階の小宇宙〜店主(仮)と厄介な人達
2年に進級し、益々新体操に割かれる時間は多くなり、授業時間からトレーニングに当てられる時間割に変わった。


だが相変わらず休み時間は自由にできる唯一の時間だ。



絶対にバレてはいけないと警戒して、二人で色々方法を考えながら、細々と短い時間の逢瀬を重ねていた。



そんなある日、いつもの場所に行っても先生が居ない。


その翌日も、その次も、先生はいなかった。



練習は相変わらず一緒にするのに、必要な事以外は話さなくなった。



先生と新体操の事しか頭になかった私は、周りがどうなっているのか全然見えても感じてもいなかったのだ。



ふと気がつくと部では孤立していて、団体戦のメンバーもよそよそしい。



本間先生がいたから気付かなかっただけなのか、本間先生と生徒達が同時によそよそしくなったのかさえ良くわからなかった。


話しかけたら特に無視はされない。


必要な事は話すし、競技に関係するコミュニケーションは取れる。


ただ、言葉では言い表せない様な疎外感と溝、自分にだけ何かを隠されている様な気持ちの悪い不透明感があった。


先生のラインに何を送信しても返事が来なくて、次第に諦め始めた。




そんな中でも6月の大会では団体も個人も優勝を決め、皆、本間先生も、何の問題も無いように喜び讃えあっている。


私はただ努力や作業の結果が出た様な感覚で、特に嬉しいとか興奮は感じる事が出来なかった。



こんな気持ちも初めての経験だ。



大会の会場には、最近練習に顔を出さない日も増えてきたアミが控室にいて、声をかけてきた。


話すのは久しぶりだ。




「おめでと! エレナ」


「…あぁ、ありがと 」


「どうしたー? 燃え尽きたー?
まだまだ早いぞー!」



私の気分が落ちている時になぜかアミは現れる。


今回の事までアミが何か関係しているのか…と一瞬過ぎったが、アミとはクラスも離れ最近は話してもいないし、アミの自尊心を傷つける様な事もしていない。



新体操のメンバーからは外れたが、
それは自分から離れていった様なものだ。



練習に来れば楽しそうにトレーニングしている姿を見かけるし、新しい友達や先輩達と仲良く賑やかにやっている。



私の事など、全く眼中にないはずだ。



「調子いいじゃん! 
次も優勝間違いないね!」



「うん…  どうかな…
そうなるように… がんばるけど  」



「何弱気な事言ってんのよ
 
世界一目指して、がんばってね…  
            …エレナ?」



久々に友人がエールをくれたと言うのに、
何故か私の心臓がドキンと強く脈打った。
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