地下一階の小宇宙〜店主(仮)と厄介な人達
数日後、今度は母の様子までおかしい。


私の新体操以外の事に一切興味を示さなかったのに、突然

 "学校生活はどう?" 

 とか、

"友達はできた?" 

とか、何かと探りを入れてくる。


もしかして先生との仲が噂にでもなっているのだろうか。


だが、聞いてくるのは交友関係や、新体操以外で何か好きな事はあるのか、とか、何が言いたいのか、自分と脈略が無さ過ぎて全くわからない。


面倒なので適当にあしらっていたが、ある日、母を校門付近で見かけた。


保護者面談でさえ何かと理由を付けて来ない人だったのに、何故こんな所にいるのか。


しかも隠れるようにキョロキョロと生徒を見回している。


しばらくその様子を観察したが、ずっと同じ動きを繰り返している。



気付いてないふりをして普通に校門を出て、体操クラブの方へ足を進めた。

携帯を見る振りをして、内部カメラで母を確認すると私をつけている。



母までも一体何なんだ。


腹立たしくてやり場のない怒りに唇を噛んだ。




数日後もまた校門を見ている母を見つけた。

その日も知らないふりをしてクラブの方へ向かい、内部カメラで確認すると、安心したのか今日は後をつけてこない。



逆に母の後を付けてみた。


すると駅とは逆の方へ向かい、寂れた通りにあるビルの地下へ降りていく。

不思議に思って近寄ってみると、

"アンカサ" 

と言う小さな喫茶店へと入っていった。


益々不可解なのは、母が一人で飲食店に入った事だ。



信じられない話かもしれないが、母は本当に一人でお店に入れない。


何故かは知らないが昔からそうらしい。



それが一人でこんな寂れた喫茶店に入っていくなんて、ただ珈琲を飲む目的では絶対に無いはずだ。



程なくして出てきた母が駅の方へ向かったのを確認して、自分もそのドアを開けてみた。


何もなければさっさと出ようと思ったが、私を見た時の店員の反応を見て確信した。



この人は絶対に何か知っている。



だが、結局この日は特に何も聞き出すことはできなかった。

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