悪役令嬢ですが、なぜか婚約者に溺愛されていて断罪されません!
――ここだっ。
待ち構えていたわたくしは、サラ様が通る前の道に、サッと足を差し出す。
記憶の中の物語では、これでサラ様が転んで、お友達のご令嬢方がわたくしをにらむという流れだ。
だけど、わたくしの差し出した足にはいつまで経っても衝撃が来なかった。
「あっ、レティシア様ごきげんよう。気づかずに申し訳ありません」
サラ様はわたくしの出した足など気にせず、呑気にカーテシーをして挨拶をしてきている。そのお友達もだ。
このイベントは今じゃなかったのだろうか……。別の日に起こることだったの?
「ご、ごきげんよう。わたくしったら邪魔をしていたわね。ごめんなさい」
心の中の動揺を隠しながら、挨拶をサラ様とお友達に返して道を譲った。
場所もタイミングも完璧だったはず。なのにどうして、物語通りにならなかったのだろう。