悪役令嬢ですが、なぜか婚約者に溺愛されていて断罪されません!
結ばれる予定のふたりの仲がいい事なんて気にしなければいいのに。
挨拶をする余裕も無かったわたくしはそう声をかけてしまっていた。
トーマ様ともうすぐ離れる事になるのは分かっている。
それでも、そう言わずには居られなかった。
まだ、トーマ様の婚約者はわたくしだ。
好かれてないとしても、わたくしは叶わない恋をしてしまっている。今はまだ私のものだ。
これもきっと、断罪に近づいてしまっているのだろう。
何も言わないふたりを見て、わたくしはそう思う。
「……レティ?」
トーマ様が不思議そうな声を恐る恐る出てきた。
「もしかして怒ってる?」
「わたくしが?怒ってなどいませんわ。婚約者が居るのに、メイドもなしに2人きりになるのはどうかと思いましたの」
遠くには居るけれど、二人の会話の届かない範囲だ。
聞かれたくない話でもしていたのかもしれないけれど、今日のわたくしは思ったことを抑えられなかった。