悪役令嬢ですが、なぜか婚約者に溺愛されていて断罪されません!
そんな事を言われたら、トーマ様はわたくしの事を嫌ってなどいないのかと思ってしまう。
まるで、わたくしの事を好きで甘やかしたい……というように聞こえる。
それは絶対に有り得ない事なのに――。
もう少しで婚約破棄になるというのに、トーマ様はどうしてそこまで演技が上手いのだろう。
いくらわたくしでも思わず、キュンとしてしまうではないか。
わたくしはずっとトーマ様をお慕いして居るけれど、今のトーマ様はさっさと別れたいと思っているはずなのだ。
リオの記憶の物語では、トーマ様はこの時既に、サラ様に恋している。
身分違いの恋――こんな展開最高じゃないか。
さすがヒロインとヒーロー、この物語に悪役令嬢はお呼びでない。
だから、この溺愛はきっとトーマ様の演技で、あくまでも、わたくしを突き落とす為の見せかけに過ぎないのだ。
そう自分に言い聞かせたわたくしは、トーマ様への想いが溢れないよう心に蓋をした。