悪役令嬢ですが、なぜか婚約者に溺愛されていて断罪されません!
間近で顔を見られるなんてまた真っ赤になってしまうに決まっている。だからわたくしは人形になるのだ。
見られても顔色ひとつ変えることの無いお人形――。
トーマ様のことは好きだけど、これ以上期待してしまっては、明後日のわたくしが悲しくなるだけ。
これは全て、トーマ様の演技なのだから……。
「うん、さっきより良くなったみたいだね」
たぶんほんの数秒だったのだろうけれど、わたくしの体感では数分のように長く感じた。
わたくしの顔色を見ていたトーマ様が、確認を終えてやっと離れて言った。
離れたことで、わたくしはお人形と、思い込むことを辞める。
「ありがとうございました。それよりもトーマ様、今日はお忙しいのでは無いのですか?私のところにも来ていて大丈夫なのですか?」
わたくしの誕生日パーティーとはいえ、開催は王宮になっている。その準備だってあるだろう。
普段の公務に加えてそれもあるのだから、とても忙しいはずなのだ。