噛み痕にキス
口の中のチョコレートはいつの間にか無くなっていた。
まあ別にいいか。
減るものでもないし、聞けば。
「井花さあ」
「なに」
「あたしのこと、いくらで抱ける?」
「え、は?」
ぽかんと口が開いている。
馬鹿なことを尋ねているのは百も承知で。
「言い値出すから身体買いたいんだけど」
同期の身体を金で買う。
どこにそんな薄い本みたいな展開があるのかと思う。
往々にして現実は小説よりも奇なり。
あたしも買えるとは思ってない。そこまで夢見がちではない。
十年以上歌手を追っかけていたのに、だ。