不純異性交際 -瀬川の場合-
…ーーーシャランッ
アップルに入ると、紗奈とマスターが談笑している。
紗奈が私に気付いて片手を上げ、マスターも私を見てニコッとする。
お馴染みのテーブル席へ腰掛けると、紗奈が黒っぽい小さな紙をヒラヒラさせる。
「立派なモン、ついてました〜!」
「やっぱり男の子~~!紗奈は絶対男の子を産むって、さんざん言われたもんね(笑)」
「ほんと、バラ組の予想通りで笑ったよ〜」
お腹にいる赤ちゃんのエコー写真だった。
子供の父親についてはバラ組のメンバーも詳しくは知らないし、紗奈が打ち明けるまでは誰も突っ込みそうもない。どこかの社長とはチラッと聞いたけれど、私もほとんど何も知らない。
エコー写真を眺めていると、アンナと奈美もやってきた。
「やっほぉ〜!もう、外寒すぎっ!マスタぁー、あったかいの飲みた~い!」
今日も明るいアンナが話しかけると、マスターはメニューを持って奥から出てきた。
「ねぇ、男の子だってー!」
ニタリと笑いながら私が言うと、アンナと奈美は「やっぱり〜!」「絶対男の子だと思ったもん!」と盛り上がる。
ケイは来れるかどうか分からないから、とりあえず4人で暖かい飲み物を飲む事にした。
「あれ?ミライ、やけにシンプルな格好じゃない?もっと気合い入れてくるかと期待してたのにぃ〜(笑)」
アンナがおちょくるように言う。
やっぱり白のブラウスに黒のスキニーパンツって、シンプルすぎたかなぁ…
その隣で奈美は優しい眼差しでこちらを確認した。
「でも…うん、可愛いよぉ。派手なの着飾るより、やっぱりミライはシンプルがいいよぉ〜。」
「ほんと、奈美は優しいわぁ〜〜〜」
アンナを見ながらわざとらしく言う。
「なんでよぉー!私だって優しいよ?!毎日ミライの行く末を案じてるもん!」
「いや、それは絶対ウソだろ(笑)」
「うん、それはないね(笑)」
こうしてみんなで他愛もない話をするのは、すごく幸せな時間。
ケイからのメッセージに最初に気付いた紗奈が、「やっぱりケイ来れないみたい。残念!」とつぶやく。
奈美の子供は1歳で、紗奈の子供はまだお腹の中。私とアンナは子供がいない。
だから、もうすぐ中学生になる子供がいるケイの気持ちや大変さをなかなか分かってあげられなかったりもする。
そんなケイに私たちは毎年お誕生日とは別でプレゼントを渡していて、"来年は何にする〜?"という会話で盛り上がった。
…
話し込んでいると、あっという間に18時を回っていた。
「もうちょっとしたら行かないとね!だれか詳しい場所わかる?」
奈美が携帯で、同級生のグループチャットを確認しながら言う。
するとたまたま近くにいたマスターが、「なんていうお店?」と聞いてきた。
「そうだよ、マスターに聞けば絶対分かるじゃん♪」
アンナが携帯の画面を見ながら、お店の名前をマスターに伝える。
「あぁ、それならね…ーーーーー」
-----
どうやら今日の会場であるカジュアルバーは、焼き鳥屋の隣にあるらしかった。
アップルを後にした私たちはマスターに聞いた道を進む。
「それにしても寒い〜〜!」
今日は風が、なんだか強めに吹いている。
あと数日で12月になるのだから、当然それはキンと冷えている。
今日は忘れずにマフラーも巻いてきた。
手触りが気に入っている、ワインレッドのマフラー。
「ねぇねぇ、みんなどうなってるかなぁ?歳取ってるかな?!全員結婚してたりして〜〜?!」
アンナがはしゃいでいる。
「まぁそりゃ、歳は取ってるだろうね。みんな30歳になってるはずだから(笑)」
私が言うと、
「全員結婚してるって事はないでしょ〜、その発想、意味が分かんないよ(笑)」
と奈美も笑う。
強い風に吹かれて、みんな髪の毛がわしゃわしゃになった頃、それらしきバーを見つけた。
「これかな?」
みんなで髪を直しながら、看板を見上げる。
するとガラスの扉の向こうに平野が見えて、目があった。
「お〜!バラ組さん、ようこそ~~!(笑)」
ご機嫌な平野が店の外まで迎えにやってきた。
ついに、同窓会が始まる…。
ひそかにドキドキしながら、4人そろって店に入る。