不純異性交際 -瀬川の場合-
ダーツバーに到着すると、すこし薄暗い店内にところどころ暖色のスポットライトが当たっている。
長いカウンター席しかなく、広いフロアの壁はダーツマシンで埋まっている。
フロアには足の長い丸テーブルがいくつか置かれていて、ダーツをする人はそこにお酒やタバコを置いているようだ。
「90分飲み放題、ダーツ投げ放題でーす!」
平野の合図と共に、みんなはさっそくダーツを始めたりお酒を注文する。
人数は15人くらい居そうだ。
カウンターの椅子に上着をかけて腰掛けると、当たり前のように瀬川くんとコウヘイ君は私の両側の椅子を引く。
「え…?!緊張するから真ん中いやなんだけど!(笑)」
「いや、こういうときは女の子が真ん中でしょ!ねぇ瀬川?」
「だな。」
「なにそれ(笑)っていうか女の”子”って歳でもないですけど。なんかごめん…(笑)」
私がそう言ってすぐ、ダーツをしていた同級生からコウヘイ君が呼ばれる。
「あぁ~”女の子”との楽しい時間がぁ~!」
女の子、を強調しながらコウヘイ君は誰かに引っ張られ去っていく。
「なにあれぇ~。いやみかなー?(笑)」
私がおちゃらけて言うと、瀬川くんはクスクス笑いながらドリンクメニューを渡してくれる。
「あ、ありがとぅ…ハイボールにしよっと!瀬川くんは?」
「じゃあ俺も。 すいません、ハイボール2つ」
注文を終えると、ひとときの無言な時間…ーー。
前を向いていた瀬川くんが、ほおずえをつきながらゆっくり私を見る。
その目はとっても優しかった。
「私生活はどうなの。うまくやってる?」
おだやかな口調で聞かれ、私は一瞬の間 黙ってしまう。
「…えっとね、こないだ電話で話したけど、フリーランスで仕事してるの。けっこう自由だけど、誰も管理してくれないから…自分を律するのが大変だったりする」
苦笑いで答える。
「……結婚、したんだよね?」
ーーー…瀬川くんは知っていた。
隠すつもりだったわけではないけれど、どこかでしゅんとしてしまう自分がいた。
なにを期待していたんだろう。自分が嫌になる。
「うん…5年くらい前にね。子供もいないし、夫とは別行動…というか、お互い気楽にやってるかな。休みも合わないから、…ーーー~」
仲が良くないことを強調するのは何だかいやらしいと思って、ところどころ訂正しながらぽつぽつと生活について話をした。
しばらくして、また少しの沈黙のあと
「俺のことは聞かないの?」
と、瀬川くんが少しいじわるに笑う。
「聞いたほうがいい?(笑)」
「いや、できれば聞かないで欲しい(笑)」
「なにそれ!ずる~!」
ひとしきり笑って、なるべくやわらかい雰囲気のまま私は言った。
「紀子と…結婚したんだよね?」
「うん。なんか聞いてる?」
「うーん…まぁ少しね。あっでも、探りを入れてたわけじゃないよ?!たまたま奈美の旦那さんが瀬川くんと同じ職場だったって言うから…それで……」
引かれてはいけないと、しどろもどろに否定する私とは裏腹に、瀬川くんはケラケラと明るく笑った。
「俺は、さぐってたけどね。お前のこと(笑)」
冗談っぽく言う瀬川くんに、え~そうなの、とヘラヘラ答えた。
でも、本当はすごく嬉しかった。
私も瀬川くんのことが気になって仕方なかったんだよと、言ってしまいたかった。