不純異性交際 -瀬川の場合-
隠し事
お酒を一口飲んで、瀬川くんは言った。
「あいつを責めたいわけではないんだけど…けっこう大変でさ、当時は。聞いてるかもしれないけど、荒れに荒れて。」
私は相槌を打ちながら瀬川くんの横顔を見つめる。
「だけど今は、まぁいわば一人暮らしだし。気楽だよ。」
「そっか……紀子は今は落ち着いたの?」
「んー…どうだろ。すげえ無責任な話なんだけど。俺の赴任が決まったときにアパートも引き払って…。それからあいつは自分の実家にいるんだよね。俺もたまには顔出すけど…正直、毎月は行ってない。話もほとんど出来てない。」
「そうだったんだ。なんかうまい言葉をかけてあげられたら良いんだけど……瀬川くん、大変だったんだね…」
「ハハハ。べつにお前が落ち込む事じゃねーよ(笑)」
数分ぶりに瀬川くんの笑顔を目にして、これ以上暗い話はしたくなかった。
「でも瀬川くん、一人暮らしってちゃんとごはん食べてるの?」
私はなるべく明るいトーンで話題を変えた。
「食ってるって(笑)」
「自炊?!」
「いや、コンビニ」
「あのね、それ”ちゃんと食べてる”って言わないから!」
2人で盛り上がっていると、フロアからアンナとその取り巻きがこちらにやってきた。
「あれ~ぇ?この2人は、中学のときから変わらないなぁ。今でも隣同士なんですねぇ~~?」
だいぶ酔っていそうなアンナは足がよろついている。
「ちょっとアンナ!大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫~!それよりさ、ミライ!!!」
言いながら、アンナはガシッと私の腕をつかむ。
「ダーツしよ~よ~!」
私が返事をするより先に、「よし、やるか」と瀬川くんが立ち上がる。
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ーーー…アンナはさっきまで、ふらふらしながらも皆ときゃあきゃあ盛り上がっていた。
そのうちに眠気がやってきたのか、今はカウンターの椅子に座ったまま私の肩に寄り添うように眠っている。
「そろそろ飲み放題終了するので!ラストオーダーあれば!」
平野がみんなに声をかけると、どやどやと5~6人がカウンターにやって来る。
私も最後にジンリッキーを注文し、すやすやと眠っているアンナの隣で静かに今日のことを噛み締めていた。
ダーツから戻ってきた瀬川くんたちの取り巻きもカウンターの前に集まって談笑している。
ひときわ背が高い彼の横顔に、思わず見とれてしまう…。
瀬川くんが私の視線に気づいて目が合った。
急いで目を逸らした私は、”絶対今の不自然だった…” と、恥ずかしくなる。
瀬川くんは近づいてきて隣の椅子に腰掛けると、またほおずえをついて私を見る。
何も言わずに…。
「……なんでそんなに見るの?(笑)」
私が笑って言うと、瀬川くんは真面目な顔で
「お前が見てたから。俺もお前の顔見とこうと思って」
と言いながら、なおも真っ直ぐ私の目を見つめている。
その目は、私の目の奥を射て離さない。
なにも言えず唇を噛みしめて見つめ返す私に、瀬川くんはニッといじわるな笑みを見せる。