不純異性交際 -瀬川の場合-
「お前って昔から、嫌なことは嫌って言うタイプだったよね」
一体なにを言い出すんだろう…と、さらに困惑する。
「まぁ…そうだね。でもそれがどうしたの?」
私の返事を聞くと、私の腕から手を離す。
瀬川くんは、どういう状況なのか分からず困った私の頬を手のひらでつつむように触れて、親指を優しく動かして撫でる。
「せ、瀬川くん…? どうしたの……」
なんとか絞り出した小さな声は、震えていた。
今もまだ優しく頬を撫でながら、「嫌?」と低い声で問われる。
その瞬間、私は自分の深い場所がキュンと潤うのを感じた。
もう、それ以上見つめないで…
心臓が溶けてしまうから…
「嫌じゃ…な…い…」
かすれてうまく出ない声は、瀬川くんだけに聞こえていた。
街灯に照らされた私たちの影が、ゆっくりと重なる。
瀬川くんの唇は壊れものを扱うように、私の唇を優しく優しく吸い上げては離す。
何度目かで、接吻の音が鳴る。
私はもう頭が真っ白になり、瀬川くんのもっと深いキスを求めていた。
探り合うような優しいキスから、分かち合っていくように瀬川くんの熱い舌が入ってくる。
ぬるぬるとお互いの舌を感じ合ったその瞬間、全身にびりびりと電流が駆ける。
「……あッ…ーー」
私は自力で立っていられなくなってしまった。
ストンと落ちそうになる腰を、とっさに瀬川くんが支える。
このキスのいやらしさに震える私の下半身は、もうどうしようもなくなっていた。
”ハァ、、、、ハァ、、、”
荒くなった吐息が白く染まる。
恥ずかしい…
体を支えられて姿勢を立て直すと、私は彼の胸にうずくまる。
瀬川くんはそのまま私をきゅっと抱きしめて、小さな声でささやいた。
「…ごめん」
「ーーー謝らないで…。なかった事に、 したくないよ……」
瀬川くんは私の髪を撫でながら言う。
「そうじゃなくて…抑えきれなくてごめんって事」
私はくらくらする頭も、震える下半身も、全部を瀬川くんに預けた。
しばらく無言で抱きしめ合った後、腕を解くと
「また会える?」
と瀬川くんが聞く。
「うん…」
もう一度キスがしたくて、瀬川くんを見つめる。
「ねぇ……そういう顔しないで。」
「っ…。そういう顔って?」
「…理性がどっか飛んでいきそうだから」
そう言ってまた、そっと触れるような優しいキスをする。
瀬川くんの唇の感触がずっと消えないまま、予約してあるホテルまで送ってもらい別れた。
今夜起こった事が夢になるのが怖くて、私はなかなか寝付けなかった。
それと同時に、結婚してから他の男の人となにかあったことがない私は、初めてのこんな情事に戸惑ってもいた。