不純異性交際 -瀬川の場合-
打ち合わせの土曜日、瀬川くんは早めにこちらに到着しているようだった。
”先に平野と合流して飯食ってる”とメッセージをくれて、時刻はまだ16時を過ぎたところだけれど私も早めに行こうかと準備を始める。
洗面所で髪をとかしながら、ウキウキしている私は
「また奈美に髪の毛やってもらわなくちゃ」
と、つい独り言を口走る。
突然うしろから
「何か言った?」
とフミが現れる。
私はビックリしすぎて少しだけ飛び跳ねた。
「えっ?いや、べつになんでもないよ」
「…ふーん。」
実に興味のなさそうな返事をしてリビングに消えていった。
無頓着で鈍感なフミは、なにかを突っ込んでくることがほとんどない。
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12月に入り、本格的な冬服の季節だ。
タイツを履いて、丈が短めのセーターを着る。
あたたかいウールの膝丈スカートに足をとおすと、少しお尻のラインが気になる…。
太ったかな…とも思ったが、この冬らしいチェック柄が気に入っている。
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打ち合わせ場所の最寄り駅に着いたとき、時刻は18時ちょっと過ぎ。すっかり日は落ちている。
思ったよりも早く着けなかったな…と思いながら、瀬川くんと平野が到着している居酒屋へ向かう。
ウィーン…と自動ドアが開いて、まだ静かな店内に入る。
待ち合わせと伝えると、奥の座敷に案内された。
「お疲れ様~!」と入っていくと、6人席に2人が向かい合せで座っていた。
「おう」と短く挨拶する瀬川くん。
「おつかれ~!どうぞ遠慮なく、瀬川の隣に!」
平野から言われ、私は素直に瀬川くんの隣に荷物を置く。
「まだ飲んでないんだよ。ミライちゃん待ってようと思ってさ~!という事で、ビールでいいかな?」
「綾香ちゃんとコウヘイ君は待たなくてもいいの?」
瀬川くんは呼び出しボタンを押しながら、「まぁ…いいっしょ」と笑う。
3人で乾杯して、楽しかった同窓会の話なんかをする。
「解散したあと、ちゃんとホテルまで送ってあげた?」
という平野の問いかけに、瀬川くんは
「ちゃ~んと送りましたよ。な?」
と私に投げかける。
あの夜のことを思いだしてしまって、私は目を泳がせながら「う、うんうん!送ってもらったよ!」
思ったよりも大きな声で答えてしまう。
そうこうしているうちに綾香ちゃんが到着し、
「みんな同窓会ぶり!ミライちゃん、同じ幹事としてよろしくお願いします」
と可愛らしく言うと、平野の隣りに座った。
すぐにコウヘイ君も到着し、私と瀬川くんが隣同士で座っているのを確認すると綾香ちゃんの隣に座った。
5人が揃って、あらためて乾杯をする。
「早速だけど、今回は偵察というか下見ということで…急だけど年内に一度行きたいんだよね。で、よさげなら4月くらい? 春になったら本番ってな感じ」
平野が言うと、
「じゃあみんなは呼ばないの?」
と綾香ちゃんが聞く。
「一応グループチャットで告知はするけど、急だしね。なかなか来れる人も少なそうだし、有志だけで気楽にって感じでどうかな?」
「いいんじゃない?」
コウヘイ君がビールをぐびぐび飲みながら言う。
「で、場所なんだけど。あんまり遠すぎても移動が大変だし、県内の田舎の山の方でさ」
平野はそう言いながら、プリントしてきたと思われる用紙を広げる。
ピックアップされたキャンプ場は3つあった。
すぐにコウヘイくんが
「ここ、良いじゃん!」
と言ってアスレチックのあるキャンプ場の紙を指差す。
「アハハ、コウヘイ君、少年みたいで可愛いね」
綾香ちゃんが言うと、コウヘイ君は調子が狂ったのかスッと黙る。
みんなでそれぞれのキャンプ場を見ていると、
「まぁ子供には良いけどね、アスレチックも。女子的にはどうなの?」
と瀬川くんが私に視線を向ける。
「うーん……炊事場とかトイレの場所考えるとココかなぁ。近くに小川もあるみたいだし、子供たちもそこで遊べるかも」
「なるほどねぇ」
平野がつぶやくと、
「確かに、おトイレは近くにあったほうがいいなぁ」
と綾香ちゃんが言う。
「じゃあ、ここにしてみますか!みんなどう?」
平野の問いかけに、みんな異論は無いようだった。
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それから日程の調整をして、決定事項はまとまった。
打ち合わせという名目ではあるものの、案外すぐに決まってしまった。
同窓会の時のようにみんなで談笑が始まり、お酒も進む。
特に綾香ちゃんはお酒に弱いようで、顔を赤くしてニコニコしている。
「綾香ちゃん…可愛いなぁ…」
ビールジョッキを持ちながら私がつぶやくように言うと、
「え~、ミライちゃんにそんなこと言われるなんて嬉しい!」と彼女ははしゃぐ。
「綾香ちゃんって中学の時から、ふわふわしてたよね~(笑)」
と平野が喋りだした頃、私はトイレに行きたくなり席を立った。