不純異性交際 -瀬川の場合-
その後も綾香ちゃんはめげずにコウヘイ君に甘えていたが、お酒の量が限界に達したのか今はとても眠たそうにしている。
そんな綾香ちゃんの様子を見て
「そろそろ一旦しめますか?」
と平野が言うと、私たち3人は同意した。
会計の伝票が来ると、男3人は当たり前のように私と綾香ちゃんの分を出してくれる。
「え、でも悪いよ。」
「いいのいいの、今日は少人数だし俺らに払わせて」
平野は明るく答える。
「こないだも出してもらっちゃったのに…」
と瀬川くんを見ると、その場が一瞬静まる。
あっ…いけない、つい口がすべってしまった。
「やっぱり瀬川、あれそういう事だったのね~!」
平野が言うと、「代わりに払っといただけだろ、変な言い方やめろ(笑)」と笑った。
店の外に出ると、綾香ちゃんを乗せるためのタクシーを探す。
「綾香ちゃん、大丈夫?ちゃんと帰れる?」
綾香ちゃんは「コウヘイくぅん」、「まだ飲もうよぉ」などと言うが、とてもこれ以上は飲めそうにない。
タクシーに乗せると、彼女は不服そうに手を振って去っていく。
「いやぁ~大変だったね。とくにコウヘイ(笑)」
平野が笑う。
「マジで疲れちゃったよ~~。すげえタッチしてくるし、俺こえぇよ~」
コウヘイくんはおびえながらも皆の笑いを誘った。
キャンプの日程と場所を再確認してから、男3人は〆のラーメンに行くらしかった。
私も誘ってくれたが、明日は朝早いしラーメンを食べる気分でもなかった。
「私は明日早いから帰るよ~!メンズだけで楽しんで下さい(笑)」
「あした日曜なのに大変だね」
コウヘイ君が言う。
トイレの通路での出来事は…お酒のせいか、私の考えすぎだったに違いない。きっとそうだ。
…
私は3人と別れると、電車の改札をくぐった。
すぐに携帯が鳴って、瀬川くんからのメッセージをひらく。
[ 送っていけないのがつらい。
家ついたら連絡くれる?心配 ]
私はもう30歳だよ?大丈夫だよ…
心配してくれる瀬川くんが可笑しくて、愛おしくなる。
[ ありがとう。うん、家ついたらメッセージするね ]
電車に乗り込むと、目を閉じて今日のキスを回想した。
あの優しい唇は麻薬だろうか。
こんなにも次を求めてしまう。
もっと深く、もっと瀬川くんと繋がりたい…
下半身がむずむずと上昇してくるのを感じ、急いで思考をストップする。
その夜も、”おやすみ”とメッセージをやりとりして眠った。
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打ち合わせから2週間以上が経ち、明日はクリスマス。
…私には関係ないんだけど。
イベント行事にも全くの無関心であるフミは、クリスマスという単語さえも知らないのではないかと思うほどに、今年も通常モードで過ごしている。
8年くらい前だろうか…まだ若々しいカップルだったあの頃に私がねだって買ってくれたリングは、今はもう色あせてアクセサリーボックスの中で眠っている。
それまでもそれからも、プレゼントというものは貰ったことがない。
(べつに、トクベツ欲しいわけでもないけれど…。)
---…そんな事を考えながら、今日も自宅で仕事をこなす。
外にはときどき乾いた風がびゅうと吹き、すっかり越冬の準備をした寒々しい木々たちが揺れる。
私はお手製のチャイティーを口に含みながら、先週アップルで紗奈とランチをした時の事を思い出す。
瀬川くんとキスしてしまった事を、まだ奈美とケイしか知らなかった。
隠し事をしているような感覚に落ち着かず、結局アップルに到着してからすぐに紗奈にも打ち明けたのであった。
紗奈は大声で驚いていたが、すぐに落ち着きを取り戻し
「…まぁ私には、なにも言ってやれない」
と神妙な面持ちで言葉を吐き出すと、ホットミルクを飲む。