不純異性交際 -瀬川の場合-
アップルに到着して、マスターに軽い挨拶をしながら窓際のテーブル席に座る。
ここは私たちバラ組の特等席。
「ほぉ、今日はミライとアンナか。いらっしゃい。」
白い口ひげを生やしたマスターがテーブルにメニューを置きながら言う。
私とアンナは上着を脱ぎながら、マスターと笑顔を交わす。
「アンナはまたナポリタン?」
ゆったりとした口調で少し笑いながら言うマスターに、アンナは元気よく答える。
「そのとーりっ!!」
アハハハ…—!
みんなで一笑いしたところで、私もメニューに目を落とす。
「私は…納豆スパにしようかな!」
するとアンナは、すかさず「このあとデートとかはなさそうだね。」と言う。
「あるわけないでしょ〜。好きなだけクサイもん食べるわい!」
またケラケラと笑いが起きて、マスターは奥に戻っていく。
「ねぇ、同窓会!たのしみだね!」
アンナに言われ、私は早くその話をしたかったことがバレないように一息ついてから答える。
「うんうん。何人ぐらい来るのかなぁ?」
「どうだろうね。平野はなんだか気合いが入ってるよね(笑)幹事向き〜!」
学生の頃、平野は特に目立つ存在ではなかった。
数年前に突然グループチャットで人を集め、また同級生の交流が始まったんだ。
-----
馴染みの味であるランチを食べながら、アンナは嬉しそうに近況報告をしてくれた。
年下の彼とうまくいっていること、もうすぐ同棲を始めるかもしれないこと、
今とっても幸せなこと…——
「私、おじいちゃんが死んじゃってからすごく落ち込んだじゃん?仕事も休んじゃったりね。
でも最近は彼がね…食べなきゃダメだって、オムライスとか作ってくれるんだよぉ〜」
幸せそうなアンナを見ていると私も嬉しい。
今日は良い日だ。
「年明けには両方の親にも挨拶しようって!ねぇ、結婚ってどんなかんじ?やっぱ毎日ラブラブ、イチャイチャ?」
幸せ真っ只中のアンナは、声がうわずっている。
しかし私自身の結婚生活をあらためて考えてみると、到底ラブラブなんかではない。
「いや…うちはラブラブではないけどねぇ(笑)それにしても彼氏くん、アンナにゾッコンなんだね!うらやましい〜〜」
「でもさ、私は30だけど彼は若いから…いつまでこの仲が続くのか、不安もいっぱいだよ。やっぱり若い子の方がいい〜とか言われたら…私また痩せちゃうよ!」
「だめ。それ以上は痩せるでない」
「アハハ!は~い。頑張るね。
ミライはラブラブじゃないのかぁ〜。そういえばミライのおのろけ話ってほとんど聞いたことないなぁ。…なんかないの?」
「おい、雑な質問だなぁ(笑)
まぁウチは結婚前の付き合いも長かったしね。仲悪いわけではないけど…仲良くもないっていうか…。離婚とかは全然ないんだけど……う〜ん。。。」
歯切れの悪い私の言葉に、アンナは紅茶をすすりながら真顔で
「セックスは?」
と聞く。
突然の質問と、その真剣さに私は一瞬吹き出した。
けれどアンナは笑わない。
「……セックスは?って、してるかしてないかって事?」
つい、当然のような確認をしてしまう。
アンナはティーカップを持ったまま、コクリと頷く。
「………して…ないね」
なんなんだこれは?
そう思いつつも答えると、アンナは空中を見つめながらつぶやく。
「そっかぁ……みんな、そうなっていくもんなのかなぁ…」
それから少しの沈黙の後、私は口を開いた。
「それは人によるんじゃない?ウチはウチだし、アンナはアンナだしさ。話聞いてると彼、しっかり愛してくれそうじゃない!心配することないよ」
「う〜ん……ふふふ、ありがと。」
アンナは苦笑いをしながらティーカップをそっと置いた。