不純異性交際 -瀬川の場合-

フリーランスというのは、自由はあるが案外孤独なものだーーー…。

私はクローゼットをひっくり返して、同窓会に着ていく服を選んでいた。
新しく買おうかとも思ったけれど、なんだか気合いが入りすぎるのも…絶対バラ組におちょくられるし、なんとかこう…気取らない、シンプルな装いで行きたい。


ーーー結局、白いブラウスと黒いスキニーパンツという、ドシンプルなものしかピックアップ出来なかった。

この歳になって、「何着てく〜?」なんて友達に持ちかけるのはなんだか気恥ずかしい。


私は、思い立ったように奈美に電話をかけた。

ほどなくして奈美が「やっほ〜!どうしたの?」と、やわらかい口調で話す。



「髪切りたくてさ〜!いつ空いてる?」

「いつでもいいよぉ、今日でも明日でも!」

「ほんと?良かった〜!ごめんね、いつも突然で(笑)じゃ、明日にしようかな?」

「OK〜!ミライが時間あるならそのあとランチでもする?」


奈美はもともと都会のヘアサロンでバリバリ働いていたが、結婚・出産を経て今は実家の美容室を母親と一緒に営んでいる。だからある意味、彼女もわりと自由がきく生活をしているのだ。


「しよしよ〜!…あのカフェ行こっか!角にある、ソファーのとこ」


アップルのような古さはなく、店の外に白いソファが並んでいる綺麗目なカフェだ。
私はその席で、外の風を感じながらゆっくりするのが好き。


「ミライあそこ好きだよね(笑)ピザ美味しいんだよね〜!」


「せっかくならピザ食べよう!それじゃあ、奈美のところには10時頃に行けばいいかな?」


「そうだね、じゃあ明日10時に待ってます。」



私は選んだブラウスとスキニーパンツを出来るだけ丁寧に畳んだ。

ひっくり返したクローゼットの整理をしていたら、あっという間に日が沈む。
まだ残っている仕事があるし、急いで夕飯を作ろう。


幸か不幸か、夫であるフミは何に対しても無頓着で、夕飯にも家事にも文句をつける事は無い。

なるべく手際よく豚の生姜焼きと味噌汁を作り、フミがまだ帰ってこないので私は自分用のホットミルクを淹れて仕事部屋へ入る。



パソコンの前で作業を開始して1時間経ったくらいの頃、フミからメッセージが入った。


[梅宮さんと飯食ってく]


"梅宮さんと飯"の日は、100%の確率で帰りが遅い。
梅宮さんお気に入りの、隣町のスナックへ行く事を私は知っている。


あぁ、明日はフミ、休みか…。

いつしか休日の共有もしなくなって、それぞれがそれぞれの毎日を過ごすようになった。

連絡が遅いとか、夕飯作ったのにとか、そんなことを言う気持ちにもならなくなっていた。

時刻はもう20時になるところで、私は椅子に貼り付いたお尻を持ち上げてリビングへ向かう。


冷めた生姜焼きをレンジで温めて、ごはんをよそる。
無言でそれを食べ始めた頃、メッセージが届いた。


[ご無沙汰してま〜す!同窓会だけど、バラ組は集まりそうかい?]

平野からだった。


[ケイは来れないけど、ほかの4人は行くよ〜!紗奈は顔だけ出して帰るみたいだから、最後までの参加は3人かな。ヨロシクね〜!]

メッセージを送るとすぐに既読マークが付く。
さすが、マメな男だ。


[了解〜!●●駅前のカジュアルバーを貸し切るからお楽しみに♪コウヘイも来ます(笑)]

私が当時コウヘイ君のことを好きだった事は、結構みんな知っていたりする。
ホワイトデーにコウヘイ君が、教室で堂々とお返しを渡してきたのがきっかけで…。

私は懐かしくて、純粋に笑みがこぼれた。


そして、すぐさま平然を装いながら
[瀬川くんは来るかな〜?久しぶりに話したいな!]
と送ると、またすぐに既読マークが付く。



[なんかすげぇタイミングで聞くね!今、瀬川と飲んでるんだよ(笑)同窓会も来ますよ♪]


ーードキッとした。


女子組はいくつも派閥…というかグループに分かれていて、誰と誰が仲良くて誰は誰と仲が悪いとか、複雑だけれど。

男子組はわりとみんな仲が良いみたいだし、平野と瀬川くんは家もそう遠くないから不思議では無い。

ドキドキして返事を返せずにメッセージを見つめていると、なんと平野から電話がかかってきた。


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