不純異性交際 -瀬川の場合-

落ち着きかけた心臓が、また大きな音を立てる。

どうしようかと一瞬迷ったけれど、なかば勢い任せに通話ボタンを押した。


携帯を耳に当てると、遠くでザワザワとした店内の音や声が聞こえる。

「もしもーし??ミライちゃーん??」

「平野〜!久しぶりだね。元気?」

「元気元気、一緒にいる大男も元気だよ(笑)」


電話の向こうで、瀬川くんの小さな笑い声が聞こえる。


「まさか瀬川くんと飲んでたなんてビックリだよぉ。大男は、私のこともう覚えてないかな…(笑)」


「覚えてないどころか、あいつ今なにしてんの?って瀬川が聞いてきたんだよ、さっき。だからメッセージしたわけ。」


「え〜そうだったの?!覚えてたか〜!」


私はなるべくいやらしくならないように、つとめて明るく答える。
瀬川くんが私のことを聞いていたなんて信じられないけれど、心臓が嬉しい、嬉しいと言っている。


「いや、フツー忘れないでしょ(笑)2人仲良かったし!ってことで瀬川に変わるね〜」


…ちょっと待って!
言うより先に、平野の携帯は瀬川くんに渡されたみたいだった。


「もしもし。」


ーーー瀬川くんの声だ。

実はこんなに嬉しいんだという事を察されないように、私は静かに唾を飲み込んだ。



「おーーい?もしもーし。息してるー?」

アハハ!と平野の笑い声も聞こえる。


「あっ!…うん!はい!!瀬川くん、久しぶりだね!」

「大丈夫かよ(笑)っていうか何年ぶりだろうな、話すの。」


「ね、ほんと。感動だよお〜…。元気そうでなにより。今どこに住んでるの?」



ーーなるべく当たり障りのない話をした。

結婚とか、子供とか、そういう事はお互いに話題にしなかった。


瀬川くんは今、となりの県の中学校で体育教師をしているらしかった。

車で2時間の道のりを毎日通勤するのは大変だし、なにかあってもすぐに駆け付けられないから…学校の近くに、アパートを借りているんだとか。


「月に1〜2回はこうやってこっちに帰ってきてる。お前はどうしてんの?」


…帰ってきたときは、紀子が待つ家で眠るんだろうか。
でも、聞けなかった。なんだか今は聞きたくなかった。


私も住んでいる場所や仕事について、簡単に話した。

「デザイン?へぇ〜すごいな。そういえば専門学校いってたって聞いたことあるわ。」

どこかから、私がデザイン系の専門学校に通っていたことを聞いたみたいだった。


また再来週にね、と電話を切ってからも、私の顔は緩んでいる。

久しぶりに話した瀬川くんは、あの頃と変わらず私のことを「お前」と呼び、落ち着いた様子だった。

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