不純異性交際 -瀬川の場合-
空想の恋?
翌朝、私は仕事部屋で目を覚ました。
あれから仕事の続きをして、ちょっと休もうと座ったら眠ってしまったんだ。
フミはきっと寝室で寝ているだろう。
真夜中に帰ってくる事はあっても、外泊した事は今までに無かった。
様子を伺いに寝室のドアを少しだけ開けてみると、やはりフミは眠っていた。
静かにドアをしめて、私は奈美のところに行くため準備を始める。
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奈美の実家には、お母さんが昔から営んでいる少々レトロな美容室がくっついている。
慣れた足取りでドアをあけると、カランカランッ…と心地よいカウベルのような音がする。
「あらミライちゃん、いらっしゃい。ちょっと待ってね。 奈ーー美ーーー!!!」
いつものように奈美のお母さんが出迎えてくれて、すぐに奥から奈美も出てきて片手をひらひらと泳がせる。
「ミライ〜!待ってたよぉ〜。」
3つある椅子のいちばん奥に座り、奈美に髪を切ってもらう。
「相変わらず良い髪だね。」
丁寧に櫛で梳かしながら、優しくまったりと話す奈美。
いつも私の髪を褒めてくれる彼女は、カラーもしない、パーマもかけない私の髪を好きだ好きだとよく言う。
話題はやっぱり同窓会の事になり、私は昨夜思いがけず、平野と瀬川くんと電話で話した事を伝えた。
「ほんとに〜?良かったじゃん、ミライは瀬川くんがほんとに好きだよねぇ」
ニコニコしながら奈美が言う。
深い意味はないかもしれないけれど、これは私にとってどこか特別な言葉だった。
"ミライと言えばコウヘイが好きだったよね。"
多くの同級生に今でもそう思われているであろう中、私が瀬川くんを気に入っている事をちゃんと認識してもらえている事がなんだか無性に嬉しかった。
「うん、私瀬川くん大好きだからね!」
さも当然の事のように、本気のトーンにならないように、明るく答える。
「瀬川くんとうちの旦那、前は同じ学校で働いてたんだよね。」
「そうなのっ?!」
「うん。だけど赴任の話が出てね。家族もいるし難しいんじゃないかなぁって旦那は言ってたんだけど…瀬川くんは二つ返事だったらしいよ?なんの躊躇も無かったって。なんかすごく田舎の中学校なんだって。教師が足りないみたいだよ。」
私は瀬川くんの新しい情報がどんどん入ってくる事にワクワクしていた。
と同時に、"家族"という言葉に紀子の存在を思い出す。
「紀子、元気にしてるのかな?」
いたって平常心、といった口ぶりで聞いてみる。
「さぁ…どうだろうね?同級生のグループチャットには参加してるよね。なぜか瀬川くんは居ないけど(笑)」
奈美も当時から紀子とはあまり接点がなく、今でも私生活についてはほとんど把握していないようだった。
「なんか、良からぬ話は旦那から聞いたけどねぇ」
苦笑いしながら言う奈美に、私はすぐにでも食いつきたかった。
けれどひとまず落ち着いて、ランチタイムまで我慢する事にした。