愛してしまったので離婚してください
「食事の後に二人で病院の中を歩いたのを覚えてるか?」
「・・・」
私たちは有名な料亭で食事をした後に、私の両親と雅の祖父母を料亭にのこして、病院へ向かった。
総合病院の娘として、病院の中はよく見て来た。
病気の治療や、経営についてなどは全くと言っていいほどわからなくても、案内くらいはできる。

着物を動きやすい格好に着替えて、私はスーツ姿の雅を案内した。

病院へ向かうタクシーの中も、案内している時も、私たちはあの頃かなり距離をとっていた。
今、雅の胸にすっぽりと抱きしめられて、お腹に雅との赤ちゃんを宿している自分を、あの日の私は想像もできなかった。

懐かしい記憶をよみがえらせながら、雅の言葉に耳を傾ける。
「あの時からだろうな。」
「・・・?」
「あの時から、俺は晶に惹かれてたんだろうな。すべてが始まったあの日から。」
「え?」
思わず体を少し離して雅の方を見る私。
雅の口から出た言葉が信じられなくて、一気に心拍数が上がる。
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