桜色の歌と君。
「なんて歌なの?」
でもやっぱり恥ずかしくて、話を少し変えた。

「ああ、聴く?」
そう言うと、宮野くんは片方のイヤホンを私に差し出す。

「えっ」
思わず声をあげると、宮野くんは私の反応に、不思議そうに首を傾げた。

そうだ、この子少し変わってるんだった。 歌を聞かれたのは恥ずかしいのにこういう事は平気らしい。

「あ、ありがとう。」 平常心を装うとしたあまり、ちょっと冷たい言い方になってしまったことを気にしながら、宮野くんの横に腰を下ろしてそのままイヤホンを受け取った。

手がこつんと当たって、緊張で小さく震えていた手が、ぽっと熱を帯びる。

宮野くんは右耳にもう片方のイヤホンをつけたままだから、自然と体の距離が縮まった。

鼓動の音が聞こえてしまいそうなその距離に、どうしようもなく緊張してしまい、体が強張る。

イヤホンを左耳につけると、曲が流れ込んできた。女性の歌声だ。

聴いたことのない曲だけれど、何だか懐かしいような気持ちになるのはなぜだろう。

優しく温かな旋律がとても綺麗で、心地良い。

『春風』とか『四月』というワードが出てくる。

春の曲だ。
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