桜色の歌と君。
「こんにちは。」穏やかな口調で柔和な笑みを浮かべた彼に、緊張して強張っていた体が少しだけ緩む。

「こんにちは。」それでも発した声は、か細く震えていた。

そんな私を見て、彼は目じりを優しく下げて、笑みを深める。

「人見知り?」

そう聞いた声はとても優しくて、心をすくい取られるような感じがする。戸惑って言葉が出てこずに、私は頷いた。

「自己紹介の時に、小さな声で顔真っ赤にして話してたでしょ。」

馬鹿にするような口調でも表情でもなくて、彼がどのような意図でそう言ったのかがわからず、私はまた小さく頷く。

「自己紹介自体は、何て言ってるのか聞こえなかったけど、名前が印象に残ってたんだ。花咲小春。春らしくて、良い名前だなって。」

そう来られるとは思っていなかった。予想外の言葉に、驚きとうれしさがこみ上げる。

自分の名前は私も気に入っている。春が好きだから。

「春が好きなんだ。」

続いた彼の言葉に、胸が音を立てた。

頬がじわりと熱くなる。
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