桜色の歌と君。
「おはよう。」

耳馴染みの良い声が耳に届いた。

声のした方に顔を向けると、宮野くんが手をひらひらとさせながら微笑んでいた。

「おはよう。」

ちゃんと挨拶ができてほっとする。

それでいて心臓が少しドキドキしていた。

「まだ緊張してる?」

笑いを含んだ声で宮野くんは聞いた。

「少しだけ。」

そう返すと、「少し?」と宮野くんは聞き返して、くすっと笑う。

微笑みを絶やさないまま教科書やノートを机の中に閉まっていく宮野くんに、意を決して話しかけた。

「昨日、あの後何してたの?」

勢い余って強くなった語幹に、ブレーキをかけられたかのように語尾が小さく震えた。

宮野くんは意を介せず、私の視線を捉えて優しい微笑を浮かべる。

「内緒。」
そう言って意地悪く言った宮野くんは、うろたえて小さく揺れた私の目を離さない。

何て返すのが正解なのかわからなくて、「ごめん。」と言って、どぎまぎしながらそっと視線を外した。

「何で謝るの。」
あははと笑う宮野くんに、よく掴めない人だなと思う。

ただでさえ人とコミュニケーションを取ることが苦手な私にはハードルが高すぎる相手かもしれない。

そんなことを考えながらいると、教室の扉がガラガラと音を立てて開き、担任の泉先生が入ってきた。
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