桜色の歌と君。
一時間目から四時間目を終えて、私は一旦トイレに行ってからお弁当を持って屋上へ向かった。

ゆっくりと扉を開くと、気持ちのいい春の空気がふわりと舞い込んできて、私の体を包み込んだ。

そして、驚いたことに、フェンスに寄りかかるように座っている宮野くんの姿が見えた。

彼の他にはまだ誰もいない。

宮野くんは目を閉じて、耳にかけるイヤホンから音楽を聴いているようだった。

近づいていくと、彼の口ずさむ歌声が聞こえてきた。

全く私に気づく様子もなく、幸せそうに音楽に身を委ねてる姿に微笑ましくなる。

彼の邪魔をしないように息を潜めて、また少しだけ近づいた。

なんの歌だろう。

綺麗なメロディだ。彼の歌に耳を傾けながら私もそっと目を閉じてみる。

すごく優しい歌い方に、春風も相まって、その心地よさに眠ってしまいそうになった。

歌声が急に途切れる。はっと目を開けると、宮野くんが目を見開いてこっちを見ていた。 その顔は少し赤く染まっている。

宮野くんは、隠れてやっていたいたずらがばれてしまった子どものような表情をしていた。
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