ダンスの新星!!~私の秘密は元トップアイドル~
「どうして事務所まで辞めたの。アイドル活動休止って事でいいじゃない。勿体ないよ」
「再スタートを切りたかったんで」

 ――再スタート、か。
 その気持ちは分からなくもない。律も、芸能界から離れた今の環境で再スタートを切りたいから。

「お互い、夢に向かって頑張ろうね。……ほら行きなさいよ! 早くしないと飛行機に乗り遅れちゃうよ!」
「うおッ」

 新條の背中を力強く押す。
 律も、新條を応援すると決めた。
 だから、さっさと行って欲しい。
 うっかり引き止めてしまう前に。

「先輩なに、怒ってるんですか」
「怒ってない! とっとと行った行った!」
「そんな追い出さなくてもいいじゃないですかぁ。普通に見送ってくださいよー」

「もう新條の顔なんて見飽きたのよ!」
「わかりましたよ、行きますよ」
「うんっ」

「頑張ってきます」
「うん」
「お元気で」
「うん」

 下りエスカレーターに吸い込まれるようにして、新條の姿が消えていく。
 影も形もなくなった時、律は寂しい気持ちがこみ上げてきて、喉の奥が熱くなった。

 もう会えないんだ――。
 そう思うと視界が滲んでくる。

「新條……好き……」

 律の口から、我慢して言えなかった言葉が漏れる。

 ――本当はすごく寂しい。
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