ダンスの新星!!~私の秘密は元トップアイドル~
 律は隣にいる新條がどんな表情をしているのか気になって、視線を向ける。背の高い新條の顔を間近で見ようとすると、うんと見上げることになった。
 新條は突然のピンチにも関わらず、余裕さえ感じる表情をしている。

「シャー! 行くかぁ!」

 殴り込みにでも行くような勢いで言った新條だったが、ドアはちゃんと三回ノックした。
 意外と礼儀はちゃんとしているんだな、と感じる。
 それに……こんなにピンチに強いことを、律は知らなかった。

「はい、どうぞ?」
「失礼します」

 入室すると、貫禄のあるマダムが革張りの椅子に座っていた。肥満体型で、年齢は五十代後半だろうか。

 ――あの人が、理事長……。
 律はパンフレットでしか見たことがなかった。

「何の用ですか。今は授業中ですよ」

 理事長は手元の書類から目を離し、氷のような視線を律らに向けてくる。

 ――うわっ、手強そうな雰囲気だなぁ……。

 律は持っている署名簿をぎゅっと抱きかかえた。チラッと横を見る。ダンス係の皆は、律以上に怖がっているのが表情だけでわかった。

「理事長に、頼みたいことがあって来たんだ」

 新條は一歩前に踏み出す。律も続いた。

 ――ええいっ。理事長なんて怖くない。ぜんっぜん怖くなんかないっ。

 思い切って、署名簿を差し出す。
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