ダンスの新星!!~私の秘密は元トップアイドル~
 律はアイドルだった頃のことを忘れたいと思っているが、新條を見るとどうしても思い出してしまう。完全に忘れるためには、新條を視界から排除し二度と関わらないようにしないといけない。

 幸い、律と新條は元々そんなに接点があったわけではない。
 アイドル時代は芸名だったから今は名前が違うし、風貌も変わった。
 新條が、律イコール南野ひかりだと気付くとは思えない。でも……。
 用心するに越したことはない、目につかないよう地味に過ごさないと。
 律はそう胸に誓う。
 


 渡り廊下を歩いていると、後ろから溌剌とした声がした。

「あっ南野ひかりちゃんですよねっ、サインくださぁーいっ」

 振り向くと、背の高い女性が満面の笑みで近付いてきている。担任のはるな先生だ。

「ちょっと、こんな所でやめてください、バレたらどうするんですかッ」

 律はキョロキョロと周りを見渡し、誰もいない事に安堵する。

「ごめんごめん。身近にこーんな大スターがいると、どうしてもテンションが上がっちゃ
うのよ~」

 こんなボロボロの私を見てよく言うよ。口が上手いんだから。
 そう思いながら律は眉根を寄せた。
 話す時やたらと距離が近いはるな先生。教師よりスナックのママの方が似合いそうな気がする。

 はるな先生は、この学校で律が元南野ひかりであることを知る、唯一の存在だ。校長にも教頭にも、その他の先生や生徒にもバレてはいないが、はるな先生にだけはバレてしまった。正体がバレたきっかけは、転入早々にあった生徒手帳の写真撮影だ。

 撮影する直前、身だしなみチェックをしていたはるな先生に、別室に呼び出されたのだ。
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