幼なじみの双子アイドルの推しが私なんてありえない!
「お疲れ様です。案内、ありがとうございました」

「え、ああ……。ありはとう」



女性は驚いた様子で紙コップを受け取る。

ここにいる人たちの中で初めてお礼を言ってくれたよ!

この人は人の心を分かっている!


なんて、ひとりで感動していると、女性の携帯が鳴る。

女性は電話に出ると、数回相槌を打って電話を切った。



「呼ばれたので失礼します。もう少しで審査結果が出ると思いますので、しばらくお待ちください」



控え室に響き渡る声。

参加者は曖昧に頷いていた。


いや、そこは携帯から目を離して挨拶しなよ!


そんな突っ込みを心の中で入れつつ、私は女性に一礼した。

控え室を出て行く女性。

トレーに残った紙コップ。

私は自分の分を手に取り、水を口に含んだ。
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