骨の髄まで愛したい
何分かして警官が来て、男をパトカーに乗せた。
 
「急に杏子ちゃんが電話してくるから、お前が何かやらかしたんかと思ったわ」 

 警官の1人が英二という人に楽しげに話しかけた。
 
「先入観やめろ。俺はサツにお世話になることはしねえよ」
 
「そうかそうか。まぁ今回はお前の手柄だな。後で学校に表彰するよう頼んどいたる」
 
「そんなんいいわ。めんどくせえ」
 
 どうやらその警官と、彼は顔見知りらしい。そんな親しげな会話を交わすと、その警官は助手席に乗り込んだ。そのまま男を乗せたパトカーは静かに去っていった。

 

 「名前は?」
 
 英二さんが私の方を見る。
 
 「美咲です‥」
 
 「家どこ? 送ってく」

 「‥‥え?」


 「私も!一緒行く」
 
すかさず、ずっと私のそばにいてくれた杏子さんも名乗り出た。
 
 「杏子今からバイトだろ。またサボったらそろそろ首なるぞ」
 
 「だよね〜はぁい。美咲のことよろしくね!ちゃんと最後まで!」
 
 「分かってる」

 そう念押しすると、杏子さんはあっという間に走り去った。

 「行くか」
 
 すると、英二さんは私の両手を塞ぐ重い荷物を、軽々と奪った。
 
 「いや、大丈夫─」
 
 「帰るの遅くなる」
 
 そう言われてしまうと、私は何も言い返せず、素直に荷物を預けた。

 初めて会った人と2人で歩く気まずさはあったが、彼の大きい背中を見ているとすごく安心した。
 必ず車道側を歩いてくれたし、歩くスピードも私の様子を伺いながら合わせてくれた。

 本当に隣町の私の家の前まで、歩いて送り届けてくれた。20時を過ぎたくらいだろうか。辺りはもうだいぶ暗い。
 
 「ここです‥ありがとうございました」
 
 私は丁寧にお辞儀をすると、預かってもらっていた荷物を受け取った。

 「なぁ、親帰ってきてないの?」
 
 おそらく、明かりが全くついていない私の家を見て、聞いてきたのだろう。
 
 「はい、基本、家で1人なので…」
 
 そう私が答えると、突然、彼はポケットに入っていたレシートを取り出して、何やら書き始めた。
 
 「これ、俺の番号。もしさっきのこと、思い出して怖くなったら電話して」
  
 差し出されたレシートの裏には斜体で書かれた数字が並んでいた。
 
「──え、あ、ありがとう…ございます…」

 予想していない不意打ちの優しさに、私は少し涙ぐむ。そんな様子を悟られないよう、美咲はすぐに玄関の扉を開けて、家の中に入った。
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