骨の髄まで愛したい
 傘がない。
 
 放課後、学校から出ようとしたときに気づいた。朝、天気予報を確認して、わざわざ持ってきたのだから、きっと誰かが間違って持って帰ってしまったのだろう。

 どこにでもあるようなビニール傘で、名前も書いてなかったから、その誰かを責めることはできなかった。

 (──走って帰ろう)

 私は土砂降りの中、踏み込む度に、気持ち悪い音が出るスニーカーで、必死に走った。

 
 やっとの思いで家に辿り着き、玄関の扉を開けると…その瞬間、私は愕然とした。
 
 玄関に父の革靴と、女物の綺麗なハイヒールが並んでいる。
 
私は一気に全ての感情が冷めてしまった。 


(ああ、私にはもう居場所がないんだ)
 

父にとって、とうとう私はどうでもいい存在となっ たのだ。

 
居た堪れない気持ちに襲われ、気づいたら私は家を飛び出していた。
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