骨の髄まで愛したい
 どれくらい走っただろうか。滅茶苦茶に走って知らない公園にたどり着いた。
 
 家に一旦戻ったなら、とりあえず、傘だけでも持ってくれば良かったと後悔する。
 
 腰まである長い髪は雨で濡れて、毛先から雫が垂れてきた。
 
 寒い。寒い。寒い。
 
 もうそれしか出てこない。これから私はどうすれば良いのだろう。父はあのハイヒールの女の人と再婚するのだろうか。
 
私はポケットにあるレシートを取り出した。


もう、どう思われようがそんなのどうでも良かった。


ただ、誰かの声が聞きたかった。ただ、あの安心する空間が欲しかった。
 
 私はレシートに書かれた電話番号に、《《初めて》》電話をかけた。

「──もしもし」

 耳元からあの低くて、優しい声が聞こえてくる。

「‥うっうっ‥」

 我慢しようとしても必死にこらえようとしても嗚咽が漏れる。

「─美咲か?どうした?今どこにいる?」

 私が泣いているのに気づいて、彼が慌てている様子が伝わってきた。
 
「英二さ‥ん‥ うっ‥ぐすっ‥」

 
「ちょっ待ってろ。今行く──

 私は電話をかけた後で、困らせてしまっていることに気づき、申し訳なさに耐え切れず、電話を切った。
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