2章・めざせ転移門~異世界令嬢は神隠しに会う。
海際に立つ
真っ白い石門、
どこか
トリイに似た
聳え立つトーテムポール
みたいだと、マイケルは
思った。

バリアロード。

周りに壁があるわけでもなく、
ただ、
海際に石の門が立つだけ。

にも関わらず
干潮時になると
島と島を繋ぐ砂洲が現れ
渡る事が出来る。
そこに門番が1人居るだけ。

島と島が繋がると
石門からのみ往き来が出来る。
それまでは、
まるで
透明のバリアに阻まれるに
遮断される。

藩島は海域を、含めて結界に
護られているのだ。

「ヤーーーオーーー!!」

そして、
バリアロードゲートは
ウーリウ藩島には2つ。

1つは王都がある、
カフカス王領国へと開かれる
キャピタルゲート。

反対側にあるもう1つは
外周国との間に拡がる
外洋港の門
ハーバーゲート。

そのハーバーゲートを目指して
ひたすら走る。

元世界でのフルマラソンで鍛えた
持久力と走りで、
マイケルはバリアロードが
先に見える入江まで来た。

「ヤーオーー!!どこー!」

マイケルが全力疾走するのは
ハーバーゲート一択。

人身売買が許されない
カフカス王領側に
ヤオを連れて行くとは
考えられない。

「外に連れ出して、オークション
に掛けられたらって、レサが
言ってたから、絶対こっち、」

大きく全身で息を弾ませ
その間にも、
マイケルは周りの巡礼者や
交易人を伺い見回す。

「マイケーしゃん!!」

ぜえぜえと、切れた息を整える
マイケルの耳に聞こえる!!

丁度、先中程、
海辺に沿いに生える南国の木の
下で、
舌っ足らずなヤオの声と、
牧場色の巻き毛が
モフモフと動く。

「ヤオ!!」

マイケルはヤオと、
木陰で休みながら列に並ぶ
男の方へ駆け出した。

「なんだ!てめぇ!」

マイケルが見つけたヤオは
不自然に
両手を薄汚い布切れで隠され、
明らかに手枷をはめられいると
判る。

「あんたさっ!人買いだよね?
その子、渡しなさいよ!」

マイケルは、いきり立つ男に
怯むことなく詰め寄った。。

「ああん!!嬢ーちゃんよ、
大人の世界じゃあな、渡せと
言われて、はいそーですかたあ
すまねーんだよ!失せろや。」

「マイケーしゃん、、」

日向で顔を真っ赤にする
ヤオが、弱々しくマイケルを
見上げた。
いつもマイケルと食事をする
ヤオが、朝に親から
食べ物をもらえているとは
思えない。

魔力がどんなに多くとも、
この世界で魔力補給は
食事しかない。

飢餓状態で魔力行使を強制される
そんな光景をダンジョンで
垣間見たマイケル。

「ヤオ、、」

ヤオの様子に、
この世界の魔力の扱いを
見せつけられた気分で
マイケルは顔を歪ませ

「異世界だからって、
悲しいほど どこも搾取の
原理って変わんないんだね。」

思わず心うちを吐露する。

半面、男は
鬱陶しそうに手を振りつつ
水袋に口を付けて
子どもの戯れ言だと言わんばかり
水分補給を悠々としていた。

水ひとつ
手枷をはめられ、与えられない。

「こっちは、本気だよ!
ほら、ここにダユンも
あるから、その子を離して!」

マイケルは背負ってきた
革袋を
渾身の思いで
男の足元に投げると、

「ほら、この枷!はずして!」

ヤオの両手を隠していた
布を
力いっぱい剥ぎ取る。

必ず、この連鎖をなんとか
してみせる!!
例え魔力の無い異世界人でも!!

憤怒の形相で
男とやり合い始めたマイケルを

周りの巡礼者達が、
驚きながら様子を見始めた。

「なんだぁ、客だったかぁ。
どれ、ふーん お嬢ちゃん、
残念だが、こりゃちと足りねぇ
親御さんに言ってもーちょい
もらってきてくれよ。なあ!」

足元の革袋を少し開けて、
男がそんな事をほざく。
それでもマシだとマイケルは
思う。
童顔で成人したてに見える
お陰で、卑猥な要求を
されないのだから。

その代わりに、
マイケルの足元を見てきたのだ。

マイケルの眼光が鋭く光る。

『ジャッ!!ドコッ!!』

その瞬間、男がもたれる
南国の木が、
男の横で激しく凹み!

『バタアアアアーン!!』

そのまま薙ぎ倒された!!

マイケルが、
男の頬をかすめて
大きく
片足を回し振りかぶり

その勢いで、
空中に跳ぶと
加速がついた重力のままに
南国の木へと

回し跳び蹴りを振り落とした
のだ。

「舐めんなよ!!華人の令嬢は
格闘で殺人戦法も嗜むんだよ」

マイケルの怒号が響く!

男の眼が最大に開く。

門番達が何ごとかと
飛んで来た。

その様子を見極めて、
マイケルは

「助けて!!妹が無理やり連れて
いかれるんです!人買いに!」

飄々と叫んだ。

一瞬にして周りに戯わめきが
拡がり

『カフカスは人身売買は、禁止
なんじゃないのか、、、』
『あの男、おかしとは思ってた』
列なす人々が囁き合う。

門番と一緒に衛兵の姿が見えると
男は周りと、薙ぎ倒された木を
見比べて

「ああ、もういい!!これで!」

小汚ない鍵を投げつける。

「あ、そう。じゃなきゃ、
あんたの足を狙うとこだわ。」

鍵を拾うマイケルの不穏な
言葉に、
「ひっ!」と男が飛び上がった。

マイケルは急ぎ、
ヤオの枷を手際よく外すと

「マ、マイケーしゃん!」

顔をグシャグシャに泣く
ヤオを背負って、
門番や衛兵が近づく前に
最速走りだした。

みるみる
遠ざかる バリアロードの門。

身を乗り出して事の顛末を
見ようと騒ぐ巡礼者達。

それを尻目にマイケルは
抗うように
ひたすらヤオを背負い
青く光る海辺をひた走る。

青い海と空の下に
残酷なまで白い巡礼者の列が
後ろに通り過ぎ
マイケルの目に焼き付く。

こおして、
マイケルはヤオを買い戻し
一件落着とは
ならない。

ここから、
マイケルは 度々ヤオを勝手に
売ろうとするヤオの親に、
その日稼いだ
ウーリを渡すはめになる。

マイケルの手持ちはなくなり
一から海でハントする日々の
始まりとなるのだ。

それでも、
マイケルは背中に背負ったヤオに
言う。

「ヤオ、あたしにとって、
ヤオはこの世界ではじめての
友達だよ。だから、助けれて
本当に、本当に良かったよ。」

そのマイケルの言葉にヤオは

「マイケー、、じゃんんんー!」

泣きじゃくってマイケルの首に
後ろから飛び付いた。


この調整世界から元世界に戻る
願いを遂げる日まで、

この世界の魔力持ちの現実を
根底から解決する。

マイケルが背中のヤオの
温もりを感じながら
そう心に決めた日になったのだ。

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