2章・めざせ転移門~異世界令嬢は神隠しに会う。
水龍の喉骨はマイケルの
それは、偶然だった。
岩場を伝いながら海面に浮上し、
マイケルが息を整える為
俯いた場所が
海底遺構の崩れた岩井戸の跡。
その浅瀬に
白く薄ボンヤリ光る
丸いモノがある。
マイケルは迷わず手にして、
懐ポケットに仕舞った。
波の中でも解る、滑らかな感触。
「何か玉かも?そうだ、井戸なら
魚に邪魔されないで潜れるん
じゃない?何かあるかもだし。」
浜辺では
何やら騒ぎ声が聞こえるが、
ヤオはマモが付いているから
心配はない。
マイケルは閃いたままに、
今度は
岩井戸跡の中へと潜った。
もうすぐ雨がやってくると、
海風がマイケルに言っている。
比較的浅瀬にある
此の井戸跡は一度潜った事がある
せいで不安はない。
すぐに潜り戻れる。
前回は古人のヘソクリなのか、
井戸の底に装飾品が
沈んでいたのだ。
もしかすれば
まだ何か埋もれいるかもしれない
期待を込めてマイケルは
必死で足を動かした。
今日は嵐の間で、
何も獲物がない。
『この前見た時は、あんな玉は
なかったから、嵐で流されたの
かもしれない。ラッキーだ!』
だから今日は、
さっきの白い玉と、、
『あった?!』
まさぐる井戸底、
その底泥に埋もれる指輪!!が
指の感覚で解る。
岩井戸に付く貝と合わせ
ギルドテントに
持って行く為、
泥から指先に引っ掛った
指輪も
懐ポケットに入れると、
マイケルは
腰のベルトからナイフを外し、
岩井戸に着く貝を削ぎ採る。
『貝は嵐で余りに数がないな。』
それでも、
いつもよりは大きい貝を十数個
採ると、
懐ポケットへ仕舞い、
底を蹴り上げて
水面に浮上する。
「フホーーイ、ホーーイ、」
丸く空いた水面にと
顔を出したマイケルは、
磯笛で息を吐き出した。
「そろそろヤオんとこに
戻らないと心配するかな。」
井戸から見える空が、
再び黒雲を立ち込めさせて
見える。
と、周りを囲む
岩井戸に浜辺の声が
反響で、よく聞こえた。
『なんだ!!あの魚!!いや、』
『水龍だ!!生きた水龍だぞ!』
『水龍の群れだ!!』
水龍、、?
マイケルが岩井戸跡から
体を浮き出し、
潮の引いた岩場に出る。
そのマイケルを見つけて、
浜辺からマモとヤオが走って来た。
「マイケル!!水りゅうだ!
水りゅうのむれが来てるよ!」
「マイケルしゃん!さかな!
水りゅうだって!さっきの!」
マイケルが
大きく息を整える横で、
2人は大はしゃぎで
マイケルに飛び付いてくる。
「待って、待ってよ。マモも、
ヤオも。ヤオは、さっきの魚を
見たんだね?もしかして、」
「はやく、こっちだよ!」
「こっち、こちー。」
そして2人に浜辺へと、
手を引っ張られるままに、
マイケルはギルドテントの浜に
戻った。
相変わらず
マイケルには、
海に異様な魚の大群が
押し寄せる光景が
全く変わりがなく見えている。
「お!マイケル!居たか!見ろ
こいつら、水龍だぞ!骨なら
海ん底の海底宮殿で、たまに
見るんだがな。生きてるのは
俺でも初めてだぞ!どした?」
マイケルが予想した通りの事が
どうやら浜で起きている、
らしい。
興奮しているレサに
マイケルは平然と聞いてみる。
「あのさ、水龍って、長い銀色の
で、頭に赤い鶏冠みたいな髭が
あるヤツであってるのかな?」
「ああん?何言ってんだ?見えて
るまんまの、群れんヤツだぜ」
そこに、ラジがマイケルの隣に
立って聞く。
「マイケル、見えないのか?」
「逆だよ、ラジ。最初から見えて
たんだ。あたしには。さっき
川でも大群になって昇るのが
見えてた。ヤオには見えなく
て、あたしが触るとヤオにも
見えるようになったんだけど。」
マイケルの言葉に、
ラジをはじめ、レサ達大人は
驚きの顔を見せて
マイケルと海とを見比べた。
「ならば、コイツらはマイケルが
触った水龍ということだな。」
腕を組んで一刻と雨模様へと
変化する海を見つめるラジが
呟いた。
「きっとそうだと思う。海にモケ
が教えてくれた岩場から入った
から、その時に群れに触って
たんだと思う。ラジ、これ、」
「うむ。マイケルには見えている
が、我々には見えない水龍。
考えられるのは、魔力が無い者
には水龍が見え、触ると、魔力
ある者にも見えるという事だ」
「やっぱりそうなるよね。しばら
くすると元に戻るみたいだし。」
ラジは変わらず精悍な顔を
灰色海に向けて、
考える様に
マイケルには見える。
「そうか。では、マイケルの
見える光景はどんな様子だ?」
「海が膨張して見えるぐらい、
水龍が島に押し寄せてる。」
予想外の大群を想像して、
レサが声を上げ、
隣のモケの肩を叩いた。
「本当かよ!?そりゃ、泳げる
わけねーな。な、モケ。」
「ああ、そうっすね。そうか。」
モケも唖然とした顔だ。
そんなモケをチラリと見て、
もう一度
自分の目に見える
夥しい数、去来する水龍の群れを
一瞥すると
マイケルはレサに聞いてみる。
「水龍って、食べれる?」
「おい!?マジかマイケル!」
「だって、獲物がないんだもん。
そだ!今日の分を引き換え
してくれない?ほら貝と指輪。
それに、コレ!白い玉!どう?」
朝の川で、
水龍と調整世界では
認識される深海魚でさえ、
捕獲できても
意味がないと理解したマイケル。
生きた水龍の群れに驚愕する島民を尻目に、
マイケルは
今日のウーリーを稼ぐ事を
優先させた。
「あー。そうか。こんなんじゃ、
海で狩れないもんな。どれ、、
マイケル!まあ、指輪は
まだいいが、この玉ってのは
頂けねぇな。こりゃ骨だぜ。」
アンバー換金の出張テント。
カウンターに出したのは、
指輪1つと、白い玉が1つだけ。
なのに、レサが触りもしないで、
白い玉をはねる。
「今日は、浜に出庭って
トレジャーハントの獲物を
自ら視ていたが、。喉仏だ。」
カウンターに出された獲物を
ラジも
一瞥してマイケルに告げた。
「若い奴は、よく水中でコレを
玉と間違えて採ってきやがる。
こんな骨はゴミ同然、エサにも
ならねぇんだよ。わりーな。」
レサが容赦なく畳み掛ける言葉を
聞きながら、
マイケルは
白い石を手にする。
「え、、このテカリある石が、」
水中では、水龍の骨は
キラリと光り、
喉仏の骨は 丸くて玉と間違える、
という事か。
マイケルは手の中の石を
悲しげに、撫でた。
「なんだ?!マイケルも、
コイツにやられたかあー!」
『ワハハ!』『マイケルがか!』
ギルドテントで忙しく買取りや、
作業をするモケ達に、
『白い石』=喉仏の骨を
『玉』と間違えたと笑われる
マイケル
が持つ白い石を
レサが
指で小突いた。
その石にポツリと雨粒が落ちる。
見かけに騙され、
皆に笑われた石。
ゴミだと言われながら、
マイケルは
何故か
ツルツルの白い石を
捨てる事なく、
懐ポケットに入れた。
調整世界に来て1年余り。
ギルドの巡礼ベッドで、
寝泊まりするマイケルにとって
余分な物や、
自分の為の物は1つもない。
アクセサリーも、
インテリアも、
定住する寝床さえ無いのだ。
巡礼ベッドも定位置ではない。
毎日、毎日 、今日寝る場所を
並んで待つ。
そんな現状のマイケルが
初めて
懐に入れた、意味の無いモノ。
「穴を開けて首飾りにしよう
かな、、、、ヤオ行こうか。」
改めて
何も持って無いこと。
水龍が見えること。
それでもヤオは居ること。
珍しくマイケルは
もて余す感情に蓋をして
肩を落とすと、
足元で佇むヤオの手を繋ぐ。
「今日は貝を焼いて、
指輪を変えたウーリーで勘弁
してもらわないとね。」
焼いた貝は、、
そのままヤオの両親に
渡すのだ。
今日の収穫は其れで全て。
マイケルは異世界に来て
初めて負の感情を閉じ込めた。
岩場を伝いながら海面に浮上し、
マイケルが息を整える為
俯いた場所が
海底遺構の崩れた岩井戸の跡。
その浅瀬に
白く薄ボンヤリ光る
丸いモノがある。
マイケルは迷わず手にして、
懐ポケットに仕舞った。
波の中でも解る、滑らかな感触。
「何か玉かも?そうだ、井戸なら
魚に邪魔されないで潜れるん
じゃない?何かあるかもだし。」
浜辺では
何やら騒ぎ声が聞こえるが、
ヤオはマモが付いているから
心配はない。
マイケルは閃いたままに、
今度は
岩井戸跡の中へと潜った。
もうすぐ雨がやってくると、
海風がマイケルに言っている。
比較的浅瀬にある
此の井戸跡は一度潜った事がある
せいで不安はない。
すぐに潜り戻れる。
前回は古人のヘソクリなのか、
井戸の底に装飾品が
沈んでいたのだ。
もしかすれば
まだ何か埋もれいるかもしれない
期待を込めてマイケルは
必死で足を動かした。
今日は嵐の間で、
何も獲物がない。
『この前見た時は、あんな玉は
なかったから、嵐で流されたの
かもしれない。ラッキーだ!』
だから今日は、
さっきの白い玉と、、
『あった?!』
まさぐる井戸底、
その底泥に埋もれる指輪!!が
指の感覚で解る。
岩井戸に付く貝と合わせ
ギルドテントに
持って行く為、
泥から指先に引っ掛った
指輪も
懐ポケットに入れると、
マイケルは
腰のベルトからナイフを外し、
岩井戸に着く貝を削ぎ採る。
『貝は嵐で余りに数がないな。』
それでも、
いつもよりは大きい貝を十数個
採ると、
懐ポケットへ仕舞い、
底を蹴り上げて
水面に浮上する。
「フホーーイ、ホーーイ、」
丸く空いた水面にと
顔を出したマイケルは、
磯笛で息を吐き出した。
「そろそろヤオんとこに
戻らないと心配するかな。」
井戸から見える空が、
再び黒雲を立ち込めさせて
見える。
と、周りを囲む
岩井戸に浜辺の声が
反響で、よく聞こえた。
『なんだ!!あの魚!!いや、』
『水龍だ!!生きた水龍だぞ!』
『水龍の群れだ!!』
水龍、、?
マイケルが岩井戸跡から
体を浮き出し、
潮の引いた岩場に出る。
そのマイケルを見つけて、
浜辺からマモとヤオが走って来た。
「マイケル!!水りゅうだ!
水りゅうのむれが来てるよ!」
「マイケルしゃん!さかな!
水りゅうだって!さっきの!」
マイケルが
大きく息を整える横で、
2人は大はしゃぎで
マイケルに飛び付いてくる。
「待って、待ってよ。マモも、
ヤオも。ヤオは、さっきの魚を
見たんだね?もしかして、」
「はやく、こっちだよ!」
「こっち、こちー。」
そして2人に浜辺へと、
手を引っ張られるままに、
マイケルはギルドテントの浜に
戻った。
相変わらず
マイケルには、
海に異様な魚の大群が
押し寄せる光景が
全く変わりがなく見えている。
「お!マイケル!居たか!見ろ
こいつら、水龍だぞ!骨なら
海ん底の海底宮殿で、たまに
見るんだがな。生きてるのは
俺でも初めてだぞ!どした?」
マイケルが予想した通りの事が
どうやら浜で起きている、
らしい。
興奮しているレサに
マイケルは平然と聞いてみる。
「あのさ、水龍って、長い銀色の
で、頭に赤い鶏冠みたいな髭が
あるヤツであってるのかな?」
「ああん?何言ってんだ?見えて
るまんまの、群れんヤツだぜ」
そこに、ラジがマイケルの隣に
立って聞く。
「マイケル、見えないのか?」
「逆だよ、ラジ。最初から見えて
たんだ。あたしには。さっき
川でも大群になって昇るのが
見えてた。ヤオには見えなく
て、あたしが触るとヤオにも
見えるようになったんだけど。」
マイケルの言葉に、
ラジをはじめ、レサ達大人は
驚きの顔を見せて
マイケルと海とを見比べた。
「ならば、コイツらはマイケルが
触った水龍ということだな。」
腕を組んで一刻と雨模様へと
変化する海を見つめるラジが
呟いた。
「きっとそうだと思う。海にモケ
が教えてくれた岩場から入った
から、その時に群れに触って
たんだと思う。ラジ、これ、」
「うむ。マイケルには見えている
が、我々には見えない水龍。
考えられるのは、魔力が無い者
には水龍が見え、触ると、魔力
ある者にも見えるという事だ」
「やっぱりそうなるよね。しばら
くすると元に戻るみたいだし。」
ラジは変わらず精悍な顔を
灰色海に向けて、
考える様に
マイケルには見える。
「そうか。では、マイケルの
見える光景はどんな様子だ?」
「海が膨張して見えるぐらい、
水龍が島に押し寄せてる。」
予想外の大群を想像して、
レサが声を上げ、
隣のモケの肩を叩いた。
「本当かよ!?そりゃ、泳げる
わけねーな。な、モケ。」
「ああ、そうっすね。そうか。」
モケも唖然とした顔だ。
そんなモケをチラリと見て、
もう一度
自分の目に見える
夥しい数、去来する水龍の群れを
一瞥すると
マイケルはレサに聞いてみる。
「水龍って、食べれる?」
「おい!?マジかマイケル!」
「だって、獲物がないんだもん。
そだ!今日の分を引き換え
してくれない?ほら貝と指輪。
それに、コレ!白い玉!どう?」
朝の川で、
水龍と調整世界では
認識される深海魚でさえ、
捕獲できても
意味がないと理解したマイケル。
生きた水龍の群れに驚愕する島民を尻目に、
マイケルは
今日のウーリーを稼ぐ事を
優先させた。
「あー。そうか。こんなんじゃ、
海で狩れないもんな。どれ、、
マイケル!まあ、指輪は
まだいいが、この玉ってのは
頂けねぇな。こりゃ骨だぜ。」
アンバー換金の出張テント。
カウンターに出したのは、
指輪1つと、白い玉が1つだけ。
なのに、レサが触りもしないで、
白い玉をはねる。
「今日は、浜に出庭って
トレジャーハントの獲物を
自ら視ていたが、。喉仏だ。」
カウンターに出された獲物を
ラジも
一瞥してマイケルに告げた。
「若い奴は、よく水中でコレを
玉と間違えて採ってきやがる。
こんな骨はゴミ同然、エサにも
ならねぇんだよ。わりーな。」
レサが容赦なく畳み掛ける言葉を
聞きながら、
マイケルは
白い石を手にする。
「え、、このテカリある石が、」
水中では、水龍の骨は
キラリと光り、
喉仏の骨は 丸くて玉と間違える、
という事か。
マイケルは手の中の石を
悲しげに、撫でた。
「なんだ?!マイケルも、
コイツにやられたかあー!」
『ワハハ!』『マイケルがか!』
ギルドテントで忙しく買取りや、
作業をするモケ達に、
『白い石』=喉仏の骨を
『玉』と間違えたと笑われる
マイケル
が持つ白い石を
レサが
指で小突いた。
その石にポツリと雨粒が落ちる。
見かけに騙され、
皆に笑われた石。
ゴミだと言われながら、
マイケルは
何故か
ツルツルの白い石を
捨てる事なく、
懐ポケットに入れた。
調整世界に来て1年余り。
ギルドの巡礼ベッドで、
寝泊まりするマイケルにとって
余分な物や、
自分の為の物は1つもない。
アクセサリーも、
インテリアも、
定住する寝床さえ無いのだ。
巡礼ベッドも定位置ではない。
毎日、毎日 、今日寝る場所を
並んで待つ。
そんな現状のマイケルが
初めて
懐に入れた、意味の無いモノ。
「穴を開けて首飾りにしよう
かな、、、、ヤオ行こうか。」
改めて
何も持って無いこと。
水龍が見えること。
それでもヤオは居ること。
珍しくマイケルは
もて余す感情に蓋をして
肩を落とすと、
足元で佇むヤオの手を繋ぐ。
「今日は貝を焼いて、
指輪を変えたウーリーで勘弁
してもらわないとね。」
焼いた貝は、、
そのままヤオの両親に
渡すのだ。
今日の収穫は其れで全て。
マイケルは異世界に来て
初めて負の感情を閉じ込めた。