女神に頼まれましたけど
王太子が無理矢理少女を連れて帰ってきたことは、国王や王妃にすぐさま伝えられた。
謁見の間には、数名の高位貴族たちも同席していた。
「して、その少女がなんだというのだ」
不満そうな顔の国王に、王太子は目をキラキラさせながら、はきはきと答えた。
「はいっ! 聖女です! 私は聖女を見つけてきたのです!」
「……聖女だと?」
「父上が、教えて下さったではありませんか! 我が国の建国の祖、クロヴィス王の王妃となった女神ミーネのお話を! あの少女は、女神ミーネの生まれ変わりに違いありません!」
正確には、生まれ変わりではない。
実際は、はるか昔、ロウセル王家から離れた者の血筋で、先祖返りで女神の特徴を持って生まれてきたのである。
しかし、彼らが、それを知る術はない。
「オーガスタス、謁見の場では、『陛下』と言いなさい」
「あ、はいっ」
渋い顔をした王妃からの注意に、王太子は肩をすくめる。
国王夫妻には、王太子しか子供がいない。そのせいで、だいぶ甘く育てられていた。彼の幼い振る舞いに、多くの高位貴族たちは顔をしかめる。
『女神ミーネは、『銀色の髪』に『マリンブルーの瞳』、『癒しの力』を持っていたといわれている。そして、彼女の存在そのもののおかげで、国は安定したと言われる。クロヴィス王亡き後、女神ミーネは天界に戻っていった』
この話は、ロウセル王国の者であれば、赤ん坊の頃から話を聞かされてきていた。神殿には、当然のように女神ミーネの像が飾られ、多くの信者がいた。
しかし、王家には、この話の続きが伝えられていた。
『ロウセル王国の王族は、女神との古からの契約で、女神の血筋を残すために二百年に一度、この国の王子は、女神の力と姿を持った娘と結ばれなければならない』
この契約について知るものは王家、それも王位継承権のある男子にしか伝えられていない。興奮している王太子は、その先のことを言いだし兼ねなかった。
国王は、苛立ちを隠せず、余計なことを言うな、という眼差しを向けるが、まだ成人前の精神的に幼い王太子に、そんな意図が通じる訳もない。
「銀色の髪は多少珍しくはあっても、いないわけではない。瞳の色にしてもそうだ」
「はい、はい、そうです。その通りです。しかし! 彼女には『癒しの力』があるのです!」
その言葉に、謁見の間にいた者たちがどよめく。
ロウセル王国でも『癒しの力』を持つものは、そう多くはなかったからだ。
「それは確かに珍しいな」
国王が、目を閉じ、考え込む。
「……その者について、一度、詳しい調査をしろ」
「はっ」
傍に仕えていた宰相に、国王が渋い顔をしながら命令を下す。
「父上っ、彼女は聖女です! 私は目の前で見ました! お願いです! ぜひ、彼女を王太子妃にすべきです!」
「オーガスタス! 何を言うのです! そんな安易に言葉にしてよいものではありませんっ!」
声を荒げたのは、諦め顔の国王の隣に座っていた王妃の方だった。
元々、隣国の王女の一人だった王妃。自分の息子が、聖女と噂があったとしても、平民と結ばれることを、安易によしとすることは出来なかった。
謁見の間には、数名の高位貴族たちも同席していた。
「して、その少女がなんだというのだ」
不満そうな顔の国王に、王太子は目をキラキラさせながら、はきはきと答えた。
「はいっ! 聖女です! 私は聖女を見つけてきたのです!」
「……聖女だと?」
「父上が、教えて下さったではありませんか! 我が国の建国の祖、クロヴィス王の王妃となった女神ミーネのお話を! あの少女は、女神ミーネの生まれ変わりに違いありません!」
正確には、生まれ変わりではない。
実際は、はるか昔、ロウセル王家から離れた者の血筋で、先祖返りで女神の特徴を持って生まれてきたのである。
しかし、彼らが、それを知る術はない。
「オーガスタス、謁見の場では、『陛下』と言いなさい」
「あ、はいっ」
渋い顔をした王妃からの注意に、王太子は肩をすくめる。
国王夫妻には、王太子しか子供がいない。そのせいで、だいぶ甘く育てられていた。彼の幼い振る舞いに、多くの高位貴族たちは顔をしかめる。
『女神ミーネは、『銀色の髪』に『マリンブルーの瞳』、『癒しの力』を持っていたといわれている。そして、彼女の存在そのもののおかげで、国は安定したと言われる。クロヴィス王亡き後、女神ミーネは天界に戻っていった』
この話は、ロウセル王国の者であれば、赤ん坊の頃から話を聞かされてきていた。神殿には、当然のように女神ミーネの像が飾られ、多くの信者がいた。
しかし、王家には、この話の続きが伝えられていた。
『ロウセル王国の王族は、女神との古からの契約で、女神の血筋を残すために二百年に一度、この国の王子は、女神の力と姿を持った娘と結ばれなければならない』
この契約について知るものは王家、それも王位継承権のある男子にしか伝えられていない。興奮している王太子は、その先のことを言いだし兼ねなかった。
国王は、苛立ちを隠せず、余計なことを言うな、という眼差しを向けるが、まだ成人前の精神的に幼い王太子に、そんな意図が通じる訳もない。
「銀色の髪は多少珍しくはあっても、いないわけではない。瞳の色にしてもそうだ」
「はい、はい、そうです。その通りです。しかし! 彼女には『癒しの力』があるのです!」
その言葉に、謁見の間にいた者たちがどよめく。
ロウセル王国でも『癒しの力』を持つものは、そう多くはなかったからだ。
「それは確かに珍しいな」
国王が、目を閉じ、考え込む。
「……その者について、一度、詳しい調査をしろ」
「はっ」
傍に仕えていた宰相に、国王が渋い顔をしながら命令を下す。
「父上っ、彼女は聖女です! 私は目の前で見ました! お願いです! ぜひ、彼女を王太子妃にすべきです!」
「オーガスタス! 何を言うのです! そんな安易に言葉にしてよいものではありませんっ!」
声を荒げたのは、諦め顔の国王の隣に座っていた王妃の方だった。
元々、隣国の王女の一人だった王妃。自分の息子が、聖女と噂があったとしても、平民と結ばれることを、安易によしとすることは出来なかった。