ロート・ブルーメ~赤花~
 この街の住人にぶつかっておいて、普通なら無事に済むはずがない。


 以前同じようにぶつかってしまった人を見たことがあるけれど、一発殴られたあと路地裏に連れ込まれていた。

 そのあとどうなったか知らないけど、出来れば知りたくもない。


 こんなだから昼でも危ない街だと言われるんだ。


 そんな街で、日葵は無関心な視線を向けられただけで終わった。

 これこそ不幸中の幸いというやつだろう。


 そう思ったんだけれど……。


「日葵、大丈夫? 痛いところとかないなら急ごう?」

「う、ん……でも……」

「お願い、早くして。あまり時間はないの」

 早く歩き出してくれない日葵に若干苛立ちながら手を引くと、彼女の顔が蒼白(そうはく)になっていることに気付いた。


「どうしたの?」

 少し落ち着いて聞いてみると、彼女は前髪の辺りに手をやりか細い声で伝えてくる。

「美桜、ごめん。ヘアクリップが……」

「っ!」

 日葵の前髪には、あったはずのヘアクリップがなかった。


 さっきぶつかった反動で取れたの? どこに?


「あっちに、転がって行ったのは見たんだけれど……」
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