ロート・ブルーメ~赤花~

 え? なに?


「それって、男?」

 声が、ひと際低くなった気がする。

 視線に凍らされ震えるあたしは、聞かれている意味を考えるより先に答えた。

 答えないと、凍えてしまいそうで……。


「男と言えば、男。……父親だから……」

 答えを聞いた紅夜は氷の視線が嘘だったかのようにキョトンと目を丸くした。


 あ、可愛い。


「父親?」

「うん」

「……」

 数秒そのまま黙っていたと思ったら、「父親から貰ったものかよ」と自嘲するように笑う。


「男の幼馴染とか元カレとか言ってたら、あのヘアクリップぶっ壊すとこだったよ」

「え!?」

 突然の過激な発言に反射的に驚く。


 ちょっ! 壊さないで!?


 そう驚いた後で、もしかして嫉妬してくれていたのかな、と気づいた。

 ちょっと、嬉しいかも。

 壊されるのは困るけど。


「でもま、それなら尚更そのシルバーリングは美桜が持ってろよ。それも、俺の父親がくれたものらしいからな」

「『らしい』?」

「ああ……俺は父親の顔は知らないからな」

「……じゃあ、お母さんは?」

「母親は俺を産んで死んだって聞いた」

「っ! ……ごめん」

 流石に聞きすぎた、と思った。

 立て続けに色々聞いて、デリケートなことまで言わせてしまったって。
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