ロート・ブルーメ~赤花~
恐々と指差したのは暗い路地裏。
絶対に近付いてはいけない場所。
「……行こう」
迷ったのは一瞬。
すぐに決断する。
転がって行ったのならすぐ近くに落ちているはず。
大切なものなんだ。
そう簡単には諦められない。
太陽の残滓で明るい大通り。
その残滓すら届かない路地裏。
明かりと影で出来た地面の線が、境界線の様に見えた。
「近くに、ある?」
日葵はあたしの後ろの方から覗き込むように路地裏の影を見る。
暗くて良く見えないこともあって、すぐ近くには見当たらない。
これは少しは入らないといけないかもしれない。
一瞬、日葵は置いて行った方がいいかな? と考える。
でも、数歩路地裏に入り込む程度だし。
それに赤を身に着けていない状態の日葵を少しでも離したらどうなるのか……。
分からないだけに恐怖だった。
「……ごめん、付き合って」
先に謝り、握る手に力を込める。
「良いよ、あたしのせいだし」
わずかに声が震えていたけれど、日葵は当然だと言わんばかりに握り返してくれた。
嫌な感じに鳴る心臓を抑えつけ、最初の一歩を踏み出す。
踏み込んでも、すぐに何かが起こるわけじゃない。
それでも息苦しく思うのは、あたしが必要以上に怖がっているせいなんだろうか?