ロート・ブルーメ~赤花~
 紅夜は迷いもなく上座に座り、あたしをその隣の椅子に座る様うながした。

 大きなテーブルの席には幹部と思われる人達が既に揃っていて、近くの席には愁一さんもいる。


 あたし達が座ったのを確認すると、その愁一さんが「じゃあ、始めるか」と口にした。


 そして紅夜が真っ先に口を開く。

「まずは、コイツ俺の女だから顔覚えておけ。手ェ出すんじゃねぇぞ」

 軽い調子にも聞こえる淡々とした声音。

 でもヒヤッとする凄みを感じる。


 同時に、一斉にあたしに視線が集まった。

「っ!」

 ビクッとしそうになるけれど、あまり表情には出さないように心がける。


 紅夜の――総長の女なのに弱いと思われるのはなんだか嫌だった。


 周囲の視線は何て言うか……本当にいたのかって感じで驚きが含まれているものが多かった。


 悪意の視線ではなかったけれど、強面(こわもて)の男達から注がれる視線は身をすくませるには十分だった。

 そんなあたしに気づいたんだろう。

 紅夜は身を乗り出してあたしの肩を抱くように引き寄せた。


「やっぱ緊張するか?」

 あたしだけに聞こえるように囁いた紅夜は、そのままみんなの目の前でキスをした。

「んっ」

 触れるだけだけれど、最後にペロリと舐められ緊張すら羞恥に変わる。
< 114 / 232 >

この作品をシェア

pagetop