ロート・ブルーメ~赤花~


 これだ。


 見た瞬間、そう思った。



 目の前に広がったのは、ライトに照らされその色を鮮やかに主張する赤い花だった。

 アサガオ科の花だろうか。

 でも見たことのない赤い色をしている。


 そう。

 見たことが無いはずなのに、これだと思った。




 暗い場所で、赤い花弁を鮮やかに浮かび上がらせるようなその姿。

 この花たちと紅夜のイメージがピッタリ重なる。


「どうだ?」

 緊張した声が掛けられた。


 どうしてそんなに緊張しているんだろう?


 そう疑問に思ったけれど、どこまでも続く赤い花の絨毯に圧倒されていたあたしはただ「すごい」と答える。


「こんな色のアサガオ科の花、見た事ないよ。……でもどうしてかな? この花、すごく紅夜のイメージとピッタリなの」

「……」

「こんな花があるなんて知らなかった……」

 そうしてしゃがみ込み、その紅夜に似た花の花弁に手を伸ばした。


 でも、その手は花に触れる前に紅夜に取られる。

「悪い、でもあまり触れないでくれ。この花は繊細だから」

「あ……うん」

 不用意に触れようとしたことを後悔する。

 この花はこの街の本質で、紅夜の秘密でもあるんだから。


 ……でも。
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