ロート・ブルーメ~赤花~
「おい、どっちだ?」

 あたしを抱えている男が倉庫の中にいた大柄な男に聞く。

 そいつはあたしと日葵を見比べ、「そっちだ」と日葵を指した。


 この大柄な男、見覚えがある。

 さっき日葵とぶつかった男だ。


 ……しまった、そういうことだったの!?


 ここにきて、仕組まれたことを理解する。


 ぶつかっても殴られたり絡まれたりしなくて良かった。
 不幸中の幸いだと思った。


 何が《幸い》よ!


 どうして日葵が狙われたのかは分からないけれど、ぶつかったのはヘアクリップを奪って路地裏に投げ込むため。

 そうしてあたし達をおびき寄せて、こうして捕まえるためだ。


 仕組まれたことに腹が立つ。
 まんまと彼らの思い通りに捕まってしまって悔しい。

 塞がれた口の中で、ギリッと奥歯を噛んだ。


「じゃあ、こっちはどうする?」

 あたしを捕まえている男が続けて聞いた。

 大柄な男は興味なさげにチラリとあたしを見ると「好きにしろ」と日葵の方を見る。


「そいつはこっちだ。しっかり利用させてもらわないとな」

「っんんーーーっ!」

 何をされるのか分からない恐怖に、日葵は口を塞がれながらも悲鳴を上げる。

 泣いているのがかろうじて見えた。
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