ロート・ブルーメ~赤花~
 こんな目に合うとは思っていなかっただろう。

 怖い場所だと分かってはいたから、本当にあたしの言うとおりにして行って帰ってくるだけのはずだったと思う。


 それが、どうしてこんな――。


「――うっ!」

 何とか日葵を助け出せないか、考えながら彼女の方を見ていた顔を無理やり上向かされた。

「お前は好きにしていいんだとよ。なかなか可愛い顔してるし、売り飛ばす前に味見くらいしておくか」

 その言葉には嫌悪しか抱けない。


 何とか、この状況を良くする方法はないか。

 あたしは頭をフル活動させて考える。

 恐怖が邪魔をするから、本当に必死だった。


 あたしは記憶力はいい方だ。

 一度見たものは大体忘れない。

 その記憶を片っ端から呼び起こす。


 何か、何か方法は――!?


 いくつかの記憶が脳裏を()ぎる。


 その中の一つをピックアップする。

 男があたしを抱えなおすために腕を一度緩めた瞬間に、それを(おこな)った。


 重力に任せて、全体重をしゃがみ込むように下に移動させる。

「っぅお!?」

 そうすれば男はバランスを崩した。
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